■ 山梨新英研11月例会(1)

2008年11月
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 11月1日(土)リバース和戸において「特別例会」がひらかれました。
 今回は父母、小学校教員にも広く呼びかけ、「小学校英語」をめぐるさまざまな課題について活発な意見交換がおこなわれました。20名が参加し、普段は中高の英語教員で交わされる「英語教育」の課題について、「外国語活動」にたずさわる小学校の先生方とも交流ができたことは大きな収穫でした。

「小学校英語」をめぐる課題について


問題提起

 まずは、小学校英語導入をめぐる背景等について戸田康先生(法政大学)より問題提起がありました。小学校への英語導入は1989年の臨教審にその発端を見ることができること。さらにその後の2002年実施の学習指導要領による「総合的な学習の時間」での「国際理解」や「外国語活動」、また「『英語が使える日本人』育成のための戦略構想」が、教育の論理ではなく経済の論理で進められたことなど、背景には大きな問題点があることがまずもって指摘されました。
 具体的な問題点としては、
  1. 理念、目標の不明確さ。外国語を学ぶ目的を「コミュニケーション」を図ることに矮小化していることなど。
  2. 教育条件が整っていないこと。
    ①指導者が十分にいない。免許を持たない学級担任が担当しなければならない状況。ALTの不足。
    ②クラスサイズの問題。外国語学習では少人数学級が絶対の条件である。20人でも多い。
    ③教材や指導法に積み上げがない。「英語ノート」に頼らざるをえない状況。統一したテキストが作れるほど小学校英語について研究や検討が十分に行われてきていない。
  3. 理論的な裏付けがない見切り発車であること。
    ①「習うより慣れろ」のまやかし。
    ②「早ければ早いほどよい」の欺瞞。
    ③言語間の距離。アメリカ人学習者が週30時間集中コースで上級レベルに達する必要時間は、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語等を学ぶのに20週要するのに対して、日本語は44週を要すると言われている。
  4. 中学校英語・入門期に否定的な影響のおそれ、
が指摘されました。

現場からの報告

 また、現場からは長田紀美先生(小学校教員)より報告がありました。長田先生の勤務する小学校では、年間8時間、5,6年生については13時間が「英語活動」に当てられています。ALTは週1日来校し、授業はALTが主導しHR担任がサポートする形でおこなわれています。ビデオ映像で1年生の授業の様子が報告されましたが、まだ日本語もままならない子ども達が、ALTの言う英語を大きな声で素直にリピートしている姿が印象的でした。文字を介さず、ピクチャーカードと音声のみで子ども達は家族に関する英語を発声していますが、やはり文字の扱いについては工夫が必要ではないかという参加者からの疑問の声があがりました。
 報告全体からうかがえるのは、とにかく現場は困っているという状況です。授業はALTに頼らざるをえないが、打ち合わせの時間もとれず、しかも先生方はALTの英語がわからないので二進も三進も行かない。5,6年生については修学旅行等の諸準備で多忙な中とても英語活動どころではない。教材が不十分で、文科省のホームページからダウンロードしようとしてもアクセスが集中し利用できない、等々。また、他の小学校でおこなわれた公開研究授業で発せられた文科省教科調査官の「英語はツールである」という狭隘な言語観にも疑問が出されました。



 とにかく見切り発車的にスタートした小学校英語ですが、上記の問題点が未解決のままでは「百害あって一利なし」という面は拭い去れません。保護者の小学校英語支持離れ、「英語特区」ほど英語嫌いが多い、先行する中国では小学校教科の中で英語の人気は最下位、韓国でも下から2番目、というマイナスの現実も少しずつ明らかになってきているようです。
 今回の「特別例会」では多くの小学校の先生方と交流することができ、抱える課題を共有できたことは大きな収穫でした。今後も、「小学校英語」について発信するとともに、機会を見つけて第二弾の「特別例会」を開催したいと考えています。

(連絡先:石山裕生)
(2009年1月4日)