TOP>会員実践5つのテーマ>平和・人権

■ 平和教育をどうすすめるか

5つのテーマ

THE CONSTITUT10N OF JAPAN ―過去形3―

林野滋樹(はやしの しげき 中学校)

関連資料:改訂版『やさしい英文憲法』(作間和子、他)

THE CONSTITUTION OF JAPAN

We, the Japanese people, resolve never to go to war.
We, the Japanese people, have sovereign power.

CHAPTER 2 NO WAR

Article 9 We never go to war. So we do not have an army, a navy, or an air force.


CHAPTER 3 RIGHTS AND DUTIES
OF THE PEOPLE

Article 12 We must defend the freedom and rights.
Article 14 All of the people are equal under the law. There must not be discrimination because of race, creed, sex, social status or family origin.
Article 19 All of the people have freedom of thought and conscience.
Article 21 All of the people have freedom of assembly, association, speech, and press.
Article 25 All people have the right to live a decent life.
Article 26 All people have the right to receive an equal education.
Article 28 Workers have the right to organize, to bargain and act collectively.
Article 36 Public officers must not give the people any tortures and cruel punishments.


CHAPTER 4 THE DIET

Article 41 The Diet is the highest organ of the state power.


CHAPTER 10 THE HIGHEST LAW

Article 98 This Constitution is the highest law in Japan. Nobody can make any laws contrary to this Constitution.

(May 3, 1967)
DOWNLOAD 1/3 : Word the_constitution_of_japan.doc
 1967年5月3日,政府が「憲法記念行事」をおこなわず―もっとも,これはもう何年も前からのことだが-新しい東京都知事美濃部 氏のもとに東京都がそれを行なうという現実のなかで,この「憲法プリント」の和訳を,5月3日の宿題として課した。
 教室では,和訳の点検と(むつかしいのでだいぶ沢山まちがえていた),憲法の内容についての解説をおこなった。そして, さらに「感想文」を家で書いてくるように求めた。集まった感想文の中,特色のあるもの二十二人分をえらび,私のあとがきを付して,二枚のプリントにして全生徒に返していった。
日本国憲法について
★「戦争ほうき」「人民は皆平等」これらは私達人民にとって,なくてはならない憲法である。しかし,この大切な憲法を私達はすてている。すてようとしている。例えば朝鮮人のことを例にとってもいえることであるが,これを見てばかにした表情を見かけることがある。表情に出さなくとも,何かさけるような感じをうける。これを書いている私にもそんな心情が心の奥深くにひそんでいるありさまなのです。つまり私たちはそんな人達に完全に負けたといいかえることができましょう。
 いくら一人一人の考え方が自由であるといわれていても,良心というかけがえのない心を中に含めて考えなければ,むじゅんした話になりかねないと思うのです。
 「人々はちゃんとした生涯を生きる権利がある」とこういうりっぱな憲法が有りながら,なぜ,びんぼうな人はびんぼう,弱い者は弱い者に定まった一生をおくらなければならないのだろうか。どんなにまずしくてもりっぱに生きていける人もありますが,中には生活の上で,いろんな困った点があるのです。ですから,みんな平等にしてこそ,この法律は成り立つのだと思います。結局,最後に言えることは, 『国民の団結と実行』だと信じています。私達は日本人であり,世界の一員であるから。
(2年4組 Y.N. 女)
★このプリントをもらって,わからない単語を調べるのに苦労した。
(2年1組 K.K. 女)
★日本国憲法のプリントを訳するのに4時間ほどかかった。
(2年4組 A.O. 女)
★ぼくは最初,憲法というものをむずかしいものと思っていた。しかし.英語で書いてあるのを見て訳していくと,いがいにかんたんに意味もよくわかる。まあかんたんに書いてはあるが,法律を少しでも学んだことになる。それに,少し法律に興味もでてきた。
 そのほかに,この単語はこうにも訳せたのか,と考えて,覚えることもできた。これからも百科事典に出ている法律を見ながら,少しでも覚えていってもよいと考えた。
(2年4組 K.S. 男)
★やさいのねあげ,ねさげをする法律は決まっているのだろうか。
(2年3粗 Y.F. 女)
★ぼくは,この世から戦争がなくなって,そしてみんながよい生活をすごすことをいのります。
 おきなわは日本のりょうどなのにアメリカがベトナムをたおそうとしている。
(2年3組 S.K. 男)
★ベトナムも,黒い霧も,憲法にいはんしている。日本は平和な国でも,交通事故や火災が大きい。……日本は台風が多い。僕の家は台風がくると,家がとびそうな家です。だから日本の憲法でなくしてほしいが,そんなことはできないが,台風をなくしてほしい。
(2年3組 Y.O. 男)
★わからない単語を辞書でひいていても,うまくつながりにくかったが,知っている単語でほかの意味がないかとさがしているうちに文になった。
 今考えればあたりまえのようなものが,まだ守られていなかったり, またやぶられたり,やぶれそうになったりしているが,もっと国民が法 律に関心をもたなくてはいけないと思う。
 ぼくたちの身近かでも第9条のようなことが守られていないようである。いくら良い法律を作っても,守らなければ役にたたない。もっと,決めたら守らなければならない。
(2年3粗 S.O. 男)
★私はこのプリントについて一番思ったことは,男女差別のことでした。どうして女のほうがはたらかされたりするのだろう。そして,どうして男の人にいじめられるのだろう。
(2年3組 N.K. 女)
★私にはあまり理解できませんが,しらなかったことがわかりました。この憲法のことを,父,母,姉,兄,妹,弟にも教えてやりました。み んなもかんしんしておりました。そのことでみんなが集まって話し合いました。みんなが意見を出しあって……やくにたちそうです。
(2年3組 H. H. 女)
★私は,第12条と第19条がいいと思います。一行目の「日本国民はけっして戦争をしない」は,この二つよりももっといいことだと思います。
 父や母に戦争後のことを聞くと,いつも食べ物の話しがでてきます。食べ物がないときなどは,草の根や,つるなどをたいて食べたとよく聞きます。こんなことが二度とないように,この憲法を守りたいと思います。
(2年3組 K.H. 女)
★私は,今まで憲法にはどんなことが書かれているのか全然知らなかた。しかし,今憲法のプリントを読んだ時,憲法が私たち日本人にとって,ひじょうに密接な関係があるのを感じた。
 しかし,現在の日本人の大部分は,憲法を知らないと思う。だから憲法にそむくような悪いことをしている。
 これからの日本人は,憲法をよく理解して,今よりも,もっともっと美しく,平和な日本を作ればよいと思う。
(2年4組 S.H. 女)
★憲法があるので,日本人はベトナム戦争にまきこまれないから,しあわせです。もし憲法がなかったら,いまごろはベトナム戦争に行っているだろう。
(2年4組 K.I. 男)
★日本の憲法は,一つ二つぐらいまちがっているとぼくは思う。
 まず一つは,9条で戦争をしないと書いてあるが,ベトナム戦争に参加しているではないか。兵隊は送っていないとしても,戦争で負傷したアメリカの兵士や,故障した戦車や飛行機を日本に運んで来る。
 軍隊をもたないといっているが,軍隊と名がちがう自衛隊をもっている。
 日本の国は,スイスやオーストリアのように永久中立国にしてほしい。
 25条で,人民は人間らしい生活をする権利をもっている,と述べているが,実状はそうではないと思う。
(2年2組 K.K. 男)
★私は戦争をなくして平和な日本をつくりたいと思っています。
(2年2粗 E.S. 女)
★日本は戦争をしないということだけど,今の日本は,いつ,戦争をするかわからないような状態だと思う。……
 それに,今問題になっているスモッグや,川なとのよごれがひどくなってきているのが目立つ。こんなことでは,健康的な生活なんかは,ただ理想だけで終ってしまうと思う。
(2年2組 S.K. 男)
★先生,憲法をおしえてくれてありがとう。ぼくたちが大きくなったら,すこしでもいいからすみよい日本にしたい,と思っています。
(2年2組 K.T. 男)
★私たち日本国民は,主権の力を持っているのだから,みんなお互いにこの法律を守って,よい国をつくりあげる努力をしたらいいと思います。戦争というものは,私たちにとっては鬼だと思う。
(2年2組 M.M. 女)
★私は,これを読んで,なるほどそうだなあと思いました。第一に戦争というものはみんながきらっているものだと思う。尊い人間の生命がうばわれる。そうすると,平和な家にも不幸ほおとずれる。
(2年2組 M.S. 女)
★第4章の国会は,黒い霧とかなんとかいわれていたが,最高機関の仕事をする人がこういうことであっていいのだろうか。
(2年2組 A.T. 女)
★自衛権が存在するのだから,自衛隊は合憲であると信ずる。したがって自衛隊の増強が,三次防によっておこなわれることによって,防衛費が世界のベストテン入りするわけであるが,現在の世界情勢を考えてみると当然のことだと思う。しかし,それが軍国主義の復活であってはならない。これは,あくまで民主主義の観念による防衛力の増強であるべきである。
 これらの理由により,第9条を廃止又は修正することを支持する。
(2年1組 H.M. 男)
★「我々は決して戦争をしない!」この言葉は,私の胸に深く残った。日本は今までに幾度か戦争をし,最後の第二次世界大戦で負けてしまった。それは,今も多くの人々のいたでとなって残っている。広島,長崎で原爆を受けた人々は,きずつき,死に,今なお病気と戦っている。
 こんなむごいことになったのは,いったい何が原因だろう。
(2年2組 E.K. 女)

* * * *

あとがき
林野滋樹
 もっともっと多くの皆さんの文をのせたいと思ったのですが,これだけでゆるしてもらいます。みんな良い感想文ばかりでした。 皆さんが,真剣に,英文の「日本国憲法」の勉強をしたことがよく分ります。
 Why did I give you the print 'The Constitution of Japan'? (なぜ私は「日本国憲法」のプリントを,皆さんにあたえたか?)
 なぜだと思いますか?―二つの理由(わけ)からです。
 第一。いまの教科書には,法律の英文など一度も出てこないので,このプリントで少しでも,そうした英文の勉強をしてもらおうと思った。前にプリントでやって皆一人のこらず暗誦(あんしょう)してもらった,あのイギリスの十二ケ月の詩の文と,憲法のような法律の文と,同じ英文でも,どんなに感じがちがうものか,ということを知ってほしかった。
 第二。5月3日は,憲法記念日なのだから,ぜひ憲法の勉強をして,政 治のことを考えてほしいと思った。(「政治教育」は,大切です。)
この二つです。
 「良識ある公民たるに必要な政治的教養は,教育上これを尊重しなければならない。」―-これは教育基本法(教育についての法律の中で,一番上の法律)の第8条の中のことばです。
 言語(ことば)は,あらゆることをあつかいます。自然科学も,社会の勉強も,毎日の生活のことも,政治や法律のことも,心の喜びや悲しみをあらわす芸術も。英語で色々やろう!
 この「英文日本国憲法」には,もちろん,「過去形」は全く用いられていない。しかし,法律文が「過去形」ではあり得ないことなりかませたことは,或る意味で,重要な「過去形」の学習であったといえよう。
 この「日本国憲法について」の感想文は,各学級でかなり大きな反響を呼びおこした。特に或る一つの学級では,激しい討議になった。 それは」「憲法9条を廃止又は修正することを支持する。」と言ってのけたM君の学級だった。憲法改正論は,学年で彼一人だった。この感想文集にのせたのは,彼の感想文の後半であり,前半は次のようなものだった。
 「第9条は,戦争の放棄をかかげているが,これは憲法が作られた時代の理想であり,現状に合わないと思う。なぜならば,現在世界において,防衛力を持たない国はないのであり,又,現在の世界情勢においては,第9条は理想でしかない。現在革新勢力は,自衛隊を違憲と主張しているが,戦争放棄であっても,自衛権は存在すると思う。」
 そしてこの後へ感想文集にのせた後半が続くのである。M君の一文は,正直に言って,私の胸にぐさりと突きささった。この生徒は,1年生の終りの《一年間の英語の学習をふりかえって》の感想文の中でも「先生が東に味方をし,西のことを悪く言ったとき,腹が立った。」と書いていた。私は,それにたいしても異議があった。なぜなら,生後たちに東を良く言い西を悪く言ったことは一度もなかったからである。たとえば,私は,1954年のジュネーブ協定の内容や,それにかかわる米国の態度,その後のベトナム侵略の事実については,もちろん生徒達に'IN A LITTLE COUNTRY'の詩をやるときなど,かなり詳しく話しておいた。しかし,それはあくまでも「事実」を述べたものであり,民族主権と平和がその内容であって,資本主義体制と社会主義制度の優劣を論じたり,資本主義体制が帝国主義戦争を生みだすというその必然性を説いたりすることは,注意深く避けて来たのだった。
 しかし,私は彼の3月のその「感想文」にたいしては,あえて何も言わずにきた。しかし,いつか何か言わねぱならぬ,と感じ続けて来ていた。彼は,'IN A LITTLE COUNTRY'にたいしても,はっ きりと,「おもしろくなかった。」と言い切って,抵抗の姿勢を示していた。
 もうこれは沈黙を守るべきではない―私は「英文日本国憲法」の学習についての彼Mの感想文を読んで,決意を固めた。彼の属する 学級での話し合いの内容は,およそ次のようなものであった。
 私「M君。やはり自衛隊は必要だと思いますか?」
 M「うん。いまの世界情勢やったらな,自衛隊がなかったらな,侵略されてまう。」
 私「なるほどね。―M君と同じように考える人,手を挙げてみて。」
(おもに男子十数人ばかりが挙手した。これは,感想文にあらわれた状態とは大いに異なっている。)
 私「自衛隊がないと日本は侵略される,という意見の人がだいぶあるようですが,それでは,いまアメリカ軍が日本にいるということは,どうでしょう? 沖縄にも,その他日本中の基地にアメリカ軍がいる。これは,日本がすでにもうアメリカに侵略されている,というふうには考えませんか?」
(みんな黙ってしまった)
 私「これが考えてほしいところです。―アメリカ軍がいても,それは侵略とは考えない。だけど,かりに中国やソビエトの軍隊が日本へやってくるとすると,それは侵略だと考える―これは少しおかしいのではないですか?」
(Mでなく,他の男生徒Aが発言する。)
 A「それでもな,いまやったら日本は中立やろ,そやから……」(Aがそこまで言ったとき,何人かの男生徒たちから,「中立とちがうぞ」という声が起った。)
 私「皆さんどう思いますか? もし,憲法9条がなかったら,韓国と同じように,アメリカの言うとおりに,日本の軍隊つまり自衛隊も,ベトナムへ送られてしまっているのではないでしょうか?―どうも日本は中立ではないみたいですね? 外国の軍隊がいると,その国は,自分の国をどんな国に作るかという本当の自由が持てない。―そう考えて艮いと思うのです。ベトナムでも同じです。ベトナムのことはベトナムの人たちが決める権利がある。ところがアメリカ軍がベトナムに五十万人以上もいて,それをさせないように している。こう考えるのが正しいのではないでしょうか?」
 (M君をふくめて,大体みんな理解したようだった。)
  私「いま日本海で,日米両軍の合同演習をやっていますね? 知っている人?」
 (一人二人しか手が挙がらず,考えさせられる。)
 私「ほかの人たちは知らないのですか? 新聞を読まないといけません。―自衛隊が本当に日本民族の軍隊かどうか,皆でしっかりと考えてみて下さい。」
 およそこんなふうな話をした。次の時間から,Mの反撥的な態度は消えた。私は,やはり言うべきことを言ってよかった,と思った。そして「独立」の問題の教育における決定的な重要さを,あらためて認識することが出来た。
『中学校の英語教育』表紙  故林野滋樹先生のこの実践は、林野滋樹・大西克彦共著『中学校の英語教育』(三友社 1970年)からの抜粋です。
 p.215~p.224から、一部の誤植を修正して、基本的にそのまま掲載しました。
DOWNLOAD 2/3 : PDFファイル 『中学校の英語教育』(三友社)p.215~p.224(PDFファイル)

「優しい英語憲法」第1ページ  林野滋樹先生の実践に関連して、作間和子さんとその学生たち、そしてサラ・ブロックさんと奈良勝行さんの協力 による「やさしい英文憲法」のデータを提供していただきました。
 今回、最終改訂版を作っていただきましたので、従来のファイルと入れ替えましたので、ダウンロードの上、ご活用ください。

  DOWNLOAD 3/3 : Word 改訂版「やさしい英文憲法」(Wordファイル)
(2014年1月6日再更新)

PAGE TOP