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日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール

2020年に提出した、日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピールです。

大学入学共通テスト民間試験導入は中止とすべき理由

大学入学共通テスト民間試験導入は中止とすべき理由

 日本外国語教育改善協議会は、共通テストに民間試験を導入することに反対している。一昨年度および昨年度のアピール別紙に加えて、以下にその理由を述べる。

1.考え方の方向性

 誰のため、何のための大学入学共通テストか。教育の一環であり青少年のために役立つものでなくてはならないという大前提を失っていたために間違った方向へ進んでしまったので、原点へもどらなくてはならないと考える。
 今回の教育改変の目的が、利潤やコストパフォーマンス追求であったため、矛盾が噴出した。また、民間を肥やすと同時に行政は手を引くという方向に流されようとしていた。民間試験を実施する側は莫大な継続的利益を確実に手にすることができる改変案であり、同時に、出題への責任を行政が負わないシステムになるところでもあった。民間試験業者の利益は、受験生が「受益者負担」で払わされるものであった。
 最大の問題は、生徒・国民に合わせる、という視点と真逆で行われようとした点である。


2.失敗の原因となった考え方

 大学への入学試験を、生徒にとって良いテストは何かという発想ではなく、外部の基準や要求を元に考えるという方向が出され、生徒はそれに合わせることを余儀なくされるところだった。

・CEFRとの関係
 共通テストの英語の出題はCEFR準拠と称しているが、実際には試験で測るための基準ではないCEFRの目的外使用であることや、詳細な指標であるCEFRを4技能という4つに恣意的に要約する乱雑さなど、実態は全く異なっている。

・「グローバル人材」
 人間を、道具・材料として見る「グローバル人材」という言葉は、利潤追求が存在目的の民間企業がそれに合う人材を求めるものであって、公教育がそれをそのまま目標にするものではない。教育の意義を矮小化するものである。公教育は利潤追求が第一目標ではなく、別の目的、つまり国民自身、子ども自身の発達が目的であって、教育および入試もその方向でなくてはならない。


3.生徒のためのテストとはどういうものか

 大学入試は、企業の利益が目的ではない。教育の一部であるならば、それは生徒個々の人生に役に立つ外国語学習の延長として行われるべきである。

(1)大学入学テストや言語学習は、経済的利益を主目的とするものではない

 外国語の学習は、言語による思考やコミュニケーションの学習である。そしてそれは、生徒にとって、利益のためと単純化できるものではない。誰しも、思考が言語を使って行われていることに異論は無いだろう。言語は、場面を共有するための言葉、感情や気持ちを伝え合う言葉など、相互の安心感や社会の平和をもたらしてくれるものとして存在する。この場合、言語学習は自分のためのものでありながら、他者のための学習という意味も持つ。社会を成立させるための必須能力のひとつが、言語能力なのである。このことは、CEFR(2018)の記述にあるMediationを理解する上でも重要な観点である。

(2)教育の一環としてのテストのありかた
 生徒の人生は多様であり、したがって役立つ言葉、コミュニケーション形態、場面等も多様である。言葉の使用目的も様々であり、更には、外国語を表面上使っていなくても、母語との比較を通じて、論理構成への洞察力を高め、母語の分析・理解を深める役割をも果たしうる。また、外国語学習は「全く分からないことに遭遇・対処する体験」という他では得がたい機会をもたらすものにもなる。外国語教育を、言葉の教育という大枠の中で捉えると、母語教育との関連や人格形成に寄与する部分も重要である。そのような全人格に関わる言語の教育の成果を評価するテストは、方法と内容の両方で多様化・複雑化するのは当然である。その意味では、発信系(書く・話す)の出題は方向性として間違いではない。課題は、妥当な出題はどのようなものなのかという分析と検討を要する点である。それは、共通テストに使う場合は受験対象が50万人以上で、なおかつ短期間に採点しなくてはいけないといった条件・制限とも関わってくる。

(3)外国語のテスト
 学校で学んだ内容の理解度を問うという、知識の受け入れ度を測る一般の教科のテストと異なるものが、言語の発信系能力のテストには含まれる。言語教育の目標を、CEFRにならって安定した社会の成立に置くと、そのためには言語能力の受信系(聞く、読む)と発信系(話す、書く)の両方の能力育成が必要である。また、音声抜きの学習は非効率なことからも、聞くことや話すことを授業で行うべきである。しかし、問題は、発信系については、受信系のようには簡単にテストできないことと、その困難さがあまり知られておらず安易に考える人が多いことである。例えば、CEFR(2001)では、スピーキングだけをとっても、以下の5項目の観点が示されている。
  1. OVERALL ORAL PRODUCTION
  2. SUSTAINED MONOLOGUE: Describing experience
  3. SUSTAINED MONOLOGUE: Putting a case (e.g. in a debate)
  4. PUBLIC ANNOUNCEMENTS
  5. ADDRESSING AUDIENCES
  6. (The Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assesment pp.58-60, Cambridge, 2001)
CEFRを根拠にと言うならば、それは同時にこの5項目をテストで扱うことになる。それは相当に丁寧で時間もかかる作業になることは容易に想像できるはずなのだが、その点に関する言及は少ない。短時間の簡易な民間試験で代替できるかのように誤解してはいけないものである。


4.共通の試験が守るべき公平性

 センター試験等、旧来の日本の大学入試と民間試験導入案は以下の部分が変わるもので、それらは受験生にとって良い変更とはいえないものだった。
  1. (1)民間試験は、内容・受け方・評価のされ方が、相互に異なる。
  2. (2)民間試験は、同じ条件で受験できるという公平性が保ちがたい。
 一部分ではなく、全ての受験生のためといえるテストは、以下を守るべきである。
(1)社会的公平性 
生徒本人の責任ではない理由、例えば家庭の経済面や居住地などが理由で不利になるようなテストになってはいけない。
(2)学校教育に基づくものであること
全ての高校生に向けたテストなので、受験生達の共通の基盤から出題されるのが公平であり、それは学校教育に基づいたテストということになる。


5.発信系(話す、書く)のテストについて

A. 外国語学習の、受信系(聞く、読む)と発信系(話す、書く)の違い

 テストには教科ごとの特性があり、外国語のテストの特徴を理解しなくてはならない。

(1)受信系は、同じ理解・同じ解答を求めることができる。
 受信系は、出題者側が先に内容を決めて作り、テストはその理解の正確さを確認することが中心になる。したがって、ひとつの共通解答を事前に設定しておくことができる。評価基準も同様である。

(2)発信系は、同じ発信を求めると、損なわれるものが多い

 発信系は、出題者側が先に内容を決め、解答をひとつに想定することは難しい。もしそのような機械的な出題をするなら、受験者自身が内容を主体的に考え、創造的に表現することに本来の意義がある発信系のテストの意味が損なわれる。

(3)テスト以前の、学習環境作り

 入試を変えれば学校の英語教育が変わるというのは本末転倒であるだけでなく、実態把握ができていない。生徒の発信活動は、それを教師や周囲の生徒が受信して初めて成立するものである。したがって、相互コミュニケーションが可能なクラスサイズに小さくすることと、話す・書くの指導ができる教員を大量に確保することが、英語教育の改善である。それなしに入試問題の変更で、形だけ改善したように装うべきではない。

B.発信系の特質に合わせたテスト

あるべきスピーキング・ライティングテストについて押さえておくべき事柄

 評価方法・基準を、日本の教育の重要事項として充分に検討しなくてはならない。個々の民間試験団体に委ねられるものではない。以下の項目はその基本となるべきものである。
  1.  (1)学校教育とつながっているテスト。
  2.  (2)教育内容にテストを合わせるのであって、テストに教育を合わせるのではない。
  3.  (3)充分に時間、回数をかけるテスト。
  4.  (4)様々な場面での能力を測るテスト。
  5.  (5)吃音等、語学力以外の要因が決定的に結果に現れる試験は避ける。

(1)発信系の出題は間違いではない

 進学時の評価にライティング・スピーキングを加味していくのは良いことだが、正しいやり方であるべきなのはいうまでもない。ほんの数十秒しゃべらせてスピーキング能力全般を測ったことにしたり、数行書かせてライティング能力の全般を測ったことにしたりすべきではない。また、多様な場面それぞれでの能力も測るものでありたい。

(2)CEFRとの関係
 共通テストの外国語・英語で4技能をテストするかどうかは、検討課題である。CEFRに準拠しているから検討の必要が無いかのような言い方をすべきでない。

 共通テストの4技能議論は、民間試験導入のための後付けの理由ではなかったのか。なぜなら、民間試験間の共通指標にしようとしたCEFRと考え方がずれている。
  1. (1)CEFRは、4技能分けでない。(5~7技能/領域)
  2. (2)それぞれの技能は、更に細分化している。
  3. (3)そもそも、選抜試験用の基準ではない。入試とは目的が違う。
それにもかかわらずCEFRに無理に当てはめようとすると、日本の受験生はA2とA1の2段階に分かれるだけで、ほぼテストの意味が無いという矛盾が生じる。

 大学の入学判定で、学校での努力が反映されることには異存はないと思われる。民間試験のスピーキング・ライティングのテストが、学校の授業とどれくらい一致しているのかが検証されていないことは、とりわけ大きな問題点である。そしてもちろん、CEFRは受験生の仕分けでなく学校教育の言語学習に使われるべきものである。CEFRでは、スピーキングやライティングの能力を細かく幾通りにも分けていて、例えば、原稿を作ってスピーチする能力などがある。これを学校で行っている場合、それは、民間試験のアドリブ的・一対一会話の試験とは大きく異なる。
 英検やGTECなど、民間試験のスピーキングテストで受験者が話す時間はきわめて短く、読解やリスニングとは比較にもならないほどである。今やるべきことは、民間試験導入は中止し、利害関係者を除いた専門家によって、大学入試における適切なテストと評価について充分に調査・研究することである。

<付記>
2018年 アピール別紙
大学入学共通試験への外部試験導入の問題点 骨子

 日本外国語教育改善協議会は、入試へのスピーキングの導入は賛成だが、外部試験導入は反対である。大学入試のためのひとつの共通テストを作るか、または高校の授業を活用するかにすべきである。

理由  1.複言語主義について。外国語は英語だけではない。
2.日本の大学入試制度と、CEFRは考え方が異なる。
3.スピーキングテストは、外部試験導入の必然的理由とはならない。
4.公的試験は、公平でなくてはならない。
5.外部試験導入は、学校教育を改善しない。


2019年 アピール別紙
大学入学共通テスト民間試験導入に反対する理由 骨子

 日本外国語教育改善協議会は、共通テストに民間試験を導入することに反対している。昨年度のアピール別紙に加えて、以下にその理由を述べる。

理由  1.CEFR本体は既に更新されており、民間試験導入の根拠にできない。
2.Listeningの配点の理由は何か。
3.外部民間試験は有料で、受験生の追加負担になる。
4.公務員を民間の試験のために働かせるべきではない。
5.入試よりも教育内容が先にあるべきである。


(2020年10月14日掲載)

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