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「大学入学共通テスト 英語民間試験導入を考える」(鳥飼玖美子さん )


 2019年10月16日放送のNHKのテレビ番組「視点論点」で、鳥飼久美子さんは「大学入学共通テスト 英語民間試験導入を考える」とし、問題点を指摘されました。
 以下はその概要です。
■■ 視点・論点 「大学入学共通テスト 英語民間試験導入を考える」■■
◆講師:立教大学 名誉教授 鳥飼玖美子さん
(要点を中心に書き起こし)

鳥飼久美子さん

◆NHK教育テレビ 2019年10月16日(水)午後1時50分~放送 [10分間]
<鳥飼玖美子さん:専門は英語教育学・言語コミュニケーション論、著書に「英語教育の危機」「子どもの英語にどう向き合うか」など多数>

 今日は2020年度に始まる大学入学共通テストへの英語民間試験の導入について、どういう制度なのか、何が問題なのかを説明します。

 大学入学共通テストというのは、これまで行われて来た大学入試センター試験を廃止した後に始まる新しい共通テストです。国立大学を目指すなら必ず受験しなければなりませんし、私立大学も多く参加していて、◆毎年50万人以上が受験します。
<■以下、項目的に>
大学入試共通テスト+民間の英語の試験を受験する必要
高校2年生は7種類ある民間試験のどれかを選んで受験
高校3年生になった年の4月から12月まで2回受験が可能
そのスコアが英語試験業者から大学入試センターの大学入試英語成績提供システムに送られ
  それが大学に送られる
民間試験のスコアをどのように活用するかは大学が決めるので
  国立大学でも出願要件にする/合否判定には使わない/民間試験のスコアを加点する
   ---と、まちまち
  活用を決めかねている大学もあるし、
  肝心の民間試験で今だに日程や会場を公表していない事業者も複数ある    ---学校現場は混乱している。

■英語に民間試験を導入することになったのは
 読む、聞く、書く、話す--の4技能を測定するということが理由。
これまでのセンター入試は「読む、聞く」の二つの技能なので
 話す力、書く力を測るのに民間試験を使う--となった。

◆2020年から3年間は大学入試センターが作る英語試験と民間試験の2本立て
 2024年以降は民間試験だけにするかどうか決まっていない。

◆初の「共通テスト」は2021年1月に実施だが
  英語民間試験は2020年のうちに受験しなければならない

◆英語民間試験はすでに多くの大学で活用されているが、共通テストとして50万人以上が受けるということになれば、規模や運営が全く違ってくる
  ところがその様な認識がなかったのか、◆制度設計に構造的な欠陥がある

■構造的な欠陥--具体的に7点ほど上げる。
◆1.大学入試センターの共通テストでありながら、民間の英語試験だけは実施する英語試験業者に運営が任せられている。
◆2.入試センターの英語試験と違って、民間試験は学習指導要領に基づいた出題ではなく、また出題内容を公表しない。また、認定された民間試験が7種類あって、それぞれ目的や試験の内容、難易度、試験方法、受験料、実施回数などが違う。

◆3番目の問題は格差。これまでは大学入試センターに検定料を払って、志望大学に受験料を払うだけだったが、今後は別に民間試験の受験料が必要。受験料は事業者によって違って、1回6千円ぐらいから2万数千円かかります。
 高校生は最低でも2回、出来たら何度も受験して練習したいと考えるでしょうけれど、保護者の経済的負担は大きくなる。結果として裕福な家庭では何度でも民間試験を受けさせ、対策講座に通わせ、スコアを上げることが可能になり、余裕のない家庭の受験生との格差は大きくなる。
 「経済的に余裕のない家庭なので国立大学を希望していたけれど、英語民間試験の出費を考えると、大学入試を諦めるしかない」という高校生もいる。

 また受験会場が全国に万遍なく用意されているわけではないので、地域によっては遠方まで出かけて受験しなければならない。交通費や宿泊費がかかって、地域格差が受験生を直撃する。
 加えて障碍のある受験生に対して、これまでのセンター入試のような細かい配慮が民間試験では準備されていない。障碍者差別対象法違反の疑いも指摘されている。
◆4番目の問題は採点の公正性。50万人の答案を短期間に誰がどう採点するのか。「スピーキングテストの採点は海外で行う。でも場所はアジアを含めた世界のどこか」としか明らかにしていない事業者もある。
 どのような資格を持った人が採点するのかを公表していない民間試験もあるので、公正性や透明性が問題となっています。

◆5番目の課題は出題や採点のミス、機器トラブルです。複数の民間試験がPCやタブレットを使う予定なので、機器トラブルや音声データを聴いても誰の声か判らない、雑音が入っていて採点出来ない、などの事故が一定の割合で発生することは避けられない。大学入試では何重にもチェックしますが、それでも出題や採点のミスやトラブルが発生することはあります。その都度、大学は対応策を公表します。
 ところが民間試験でそのような事態が起きても公表するかどうか判らない。文科省の見解は『民間事業者の採点ミスについて大学入試センターや大学が責任を負うことは基本的には想定されない』というものです。出題や採点危機管理で大学入試センターほどの厳密な運営を実現することは経費も手間も並大抵ではない。民間事業者に一任でいいのか。

◆6番目の問題は利益相反の疑い。民間試験の中には問題集などの対策本を販売している事業者があります。担当部署が違ったとしても、同じ事業者が共通テストの一環である英語試験を実施したら、対策指導で収益を上げるというのは道義的な責任が問われないか。
 高校を試験会場には使わないと明言していたのに、最近になって方針を変えた民間事業者もあります。受験生が通う高校を会場にして、その高校の先生達が試験監督をすることに問題はないのでしょうか。

◆最後に根本的な問題。高校は大学入試を無視できないので、高校英語教育は民間英語試験対策に変質します。授業を潰して模擬試験を受けさせる高校もすでに出ています。民間試験が学習指導要領に従うことを義務づけられてはいないので、民間試験対策に追われることは公教育の破綻につながります。かつては受験勉強が高校教育を歪めていると批判されましたが、民間試験対策が公教育を歪めることになります。

■英語は話せるようにしたいという願いは理解できます。でも話すことは状況や相手によって違ってきます。文化的な影響もあります。話すことは複雑なので、正確に測ることは極めて難しい。高校までの基礎力を土台に大学入学後に時間をかけて指導する方が効果は上がります。

◆そもそもスピーキングテストでは話す力の何を測るのでしょうか。文法の正確さを測るのか、発音の善し悪しを見るのか、ともかく淀みなく喋れればいいのか、採点基準によって点数は違ってきますし、採点者によって評価はばらつきます。それを避けるために採点しやすさを目指す出題にすると、本来のコミュニケーション能力を測ることにはなりません。

◆話す力を入試選抜に使うのはムリがあると判ります。センター入試は二つの技能しか測ってないからダメだとされましたが、実際は学習指導要領に準拠して、コミュニケーションという視点から可成工夫を凝らして総合的な英語力を測定していました。 4技能というのは別々に測定する必要はなく、互いに関連しているので、相互的に考えるべきものです。

◆受験生を犠牲にすることはあってはなりません。公正、公平な選抜試験を実施するにはどうしたらいいのか、大学入試は何をどう測るべきなのか、そもそもコミュニケーション能力とは何か、など教育的観点に立ち返って議論できたらと願っています。
  (書き起こし:管 幹雄)

(2019年10月23日掲載/10月24日更新)

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