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日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール

2018年に提出した、日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピールです。

大学入学共通試験への外部試験導入の問題点

大学入学共通試験への外部試験導入の問題点

 日本外国語教育改善協議会(以下「改善協」)は、入試へのスピーキングの導入は賛成だが、外部試験導入は反対である。改善協は、外国語を入試科目として使うなら音声テストのリスニング、スピーキングを含めるべきだと1980年から主張している。その後リスニングは大学入試センター試験に取り入れられた。スピーキングの導入にも賛成である。しかしその方法としての外部試験導入は間違いである。大学入試のためのひとつの共通テストを作るか、または高校の授業を活用するかにすべきである。

<項目>
問題点
  1. 複言語主義について。外国語は英語だけではない。
  2. 日本の大学入試制度と、CEFR は考え方が異なる。
  3. スピーキングテストは、外部試験導入の必然的理由とはならない。
  4. 公的試験は、公平でなくてはならない。
  5. 外部試験導入は、学校教育を改善しない。


1.複言語主義について。外国語は英語だけではない。

 外部試験導入で話題にされている試験・検定は、すべて英語であるが、他の言語を無視するのはCEFRの複言語主義、つまり多様性の積極的受容という理念の否定である。CEFRの存在理由は無視し、Can Doなど部分をまねようとしている矛盾が英語偏重に現れている。
 現行のセンター試験は、英・仏・独・中・韓の5 言語で行われている。基本的に英語と同様に扱うとして様々な言語の検定・資格試験も大学入試に利用可能にするのであれば、矛盾は解消されるが、残念ながら実態は逆と思われる。また、他言語・他教科は従来通りで英語だけ外部試験というのは整合性がない。


2.日本の大学入試制度と、CEFRは考え方が異なる。

 旧来の日本のパターン「目標=高得点」は、CEFRの考える複文化主義(pluriculturalism)・複言語主義(plurilingualism)の、つまり平和のための教育という目標ではない。しかし、日本の行政はCAN-DOを達成目標に据えてしまい、その間違いはCEFRの担当者から指摘されている。CEFRの考え方は日本での受験生選抜のための学力概念とは異質であるので、日本で大学の合否判定資料として使えるかを、根本から検証する必要がある。
 受験者の評価についても、4技能をひとまとめにして考えているから、ひっくるめて判定する各外部試験を導入して事足りるという誤解も生じている。誤解というのは、CEFRでは各技能やさらに細分化した個別の項目の能力をポートフォリオに入れるのが目的だからである。CEFRが4技能を対象にしているという理由でスピーキングを入れたい、それを根拠に外部試験導入としたなら、外部試験の多くは4技能別々の判定など出さないので、結果的に英語力全体をひとくくりで段階分けするしかなくなる。例えばリーディングはB2、リスニングはB1、ライティングはB1、スピーキングはA2、のような、ひとりの人のポートフォリオに本来入れられるはずの情報とは違ってしまう。日本の大学入試に、CEFRの一部分だけ移植することと、外部試験導入の間には、矛盾が生じるのである。
 各外部試験を、それぞれどうCEFRの6段階とすり合わせるか、という問題もある。他社より多く受験者を集めるための易化調整がすでに起きており、A1~C2との対照が、この数年間で易しい方に変わってきている。しかし、きちんと対照表の内容まで読めば、母語である日本語でもC1評価に入れる高校生はかなり少数で、大半はB2止まりだと分かるはずである。これでは、母語並みの英語力という評価が乱発されてしまう。
 日本の大学入試のあり方についてもCEFRに対しても論理的分析や理解が不足したまま、外部試験導入がおこなわれようとしている現状に、改善協は異を唱える。


3.スピーキングテストは、外部試験導入の必然的理由とはならない。

 スピーキングテストをするなら、大学入試という目的に特化したテストを専門家を集めて真剣に作成すべきである。また、学校の外でテストをしなければならないという固定観念を捨てれば、高等学校の調査書にスピーキング評価の記述を載せるなどで解決可能でもある。
 英語での外部試験導入の理由付けとして、スピーキングテストが挙げられている。
  • 言語運用能力を測るには4技能すべてを含めるべきである。
  • しかし、センター試験で50 万人以上に一斉にスピーキングテストをできない。
  • だから、ノウハウのある外部試験に委ねる。
 このような理由づけが行われているが、論理の飛躍がある。例えば、本当にヨーロッパに倣いたいのなら、従来の統一テストの型に囚われず、学習指導要領に沿ったスピーキング評価を調査書に記入すれば、同じ基準でできる。民間の各試験がバラバラの方法・基準でやるよりも本筋である。
 各外部試験が、スピーキングに関する多様な能力のどの部分を測っているのかについても、考えておかねばならない。外部試験はスピーキングの測定したい項目が正しく評価できるとの主張もあるが、評価のぶれが出にくい事柄に絞って評価項目を設定すればそういう結果が出る。スピーキングのさまざまな面の、限られた部分だけに焦点を当てて判定しているものを、スピーキング能力全般の評価のように勘違いしてはいけない。専門的な話はできるが買い物の会話が苦手だと不利になるような外部試験を導入して解決させようというのは、内容分析が欠けている。外部の4技能一括のテストに頼る必要は、元から存在していない。
 スピーキングはパフォーマンスであるゆえ、言語能力以外の部分、例えば受験生の性格、気質に得点を付けかねない。外部試験の一発勝負的スピーキングテストでは、「言われたことへの反応が瞬時・器用にできるか」という面が測られ、あがり性や人見知りの生徒に、言語能力が低いという結果が出る危険がある。また、吃音、緘黙等の生徒の発達や心理への配慮も欠如している。もちろん、企業が便利に使える「グローバル人材」としての尺度では評価が低いのだろうが、それは学力とは別の話である。TOEFLのように英語圏での大学生活への適応力を測るテストも、日本の学校教育の成果としての学力とは別のものである。
 外部試験は4 技能をひとまとめに判定するが、CEFRでは、スピーキングだけをとっても、さまざまな言語使用の場面ごとで多様な分析ができると考えられている。それをきちんと活かせばよい。CEFRの文書中では5項目である。
  • OVERALL ORAL PRODUCTION
  • SUSTAINED MONOLOGUE: Describing experience
  • SUSTAINED MONOLOGUE: Putting a case(e.g. in a debate)
  • PUBLIC ANNOUNCEMENTS
  • ADDRESSING AUDIENCES
(The Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assesment pp.58-60, Cambridge, 2001)
 反射神経を測るような応答は苦手でも、自分で原稿を書いてスピーチする能力は高いことが十分にありえる。むしろ外部試験では一部の能力しか評価されないという問題が生じる。


4.公的試験は、公平でなくてはならない。

 新しい共通試験の他に、有料の外部試験をさらに受験させられる側の視点を持つべきである。なぜ、共通試験の中でやってもらえないのか、納得できる説明はなされていない。試験する側が便利だという話だけである。しかし、高校生のためには、共通試験の中でちゃんとやるべきである。現行のセンター試験は、全教科で全ての受験者に同じチャンスを保証する前提で作られており、1次試験・共通試験には適切であった。7種類もの別々の有料の試験でなく、本来は、費用の追加負担のない共通の試験を公的機関がおこなう責任を持つべきである。
 また、外部試験対策をしようとすれば、費用はかかるし、塾・予備校が近隣に存在しない場合など生徒間の不公平がさらに広がる。
 いつ受験するのかについて、現時点では、高校3年生の1年間に2回受けて良い方を利用、となっているが、これも疑問がある。例えば高校2年生までに英検1級を取っていても有料試験を再受験させる根拠は何か。外部試験でスコアや資格を取った後の期間はどう考えるか。元々は受ける・受けないが自由な前提の外部試験を、必須のものとすることに無理がある。
 公教育に投資しないのは国家の将来に投資しないことである。なぜ、問題作成に税金を使わないのか。これは全ての子どもたちへの教育の保証という観点からも正しくない。学校教育の延長、またはその中で、スピーキング評価を受ける機会が与えられるべきである。


5.外部試験導入は、学校教育を改善しない。

 今回の外部試験導入は、センター試験より外部試験の方が質が高いという理由ではない。スピーキングを入れることも外部試験導入の根拠にならない。他の技能の試験からスピーキングを分離させれば済む。4技能ひとまとめの外部試験に依存する必然性はどこにもない。むしろ共通試験から外国語を除外することの弊害がある。
 二次試験で英語を受験しないなら、高校3年生1学期の外部試験で高いスコアを取った後は学校の英語授業を放棄することができる。卒業は可能であり、その時間を残りの教科の勉強に使う方が受験に有利だと考えうる。これは、4技能をひっくるめた外部試験を強行すれば避けられない事態である。
 多くの外部試験は学習指導要領と無関係な内容である。英検はもともと学校の進度を考慮して級分けされているが、TOEFLなどの検定は、日本の学校教育と関係なく作られている。外部試験は、それぞれで対象も目的も異なるし、外部試験向けの学力は、学校の授業と軌を一にするものではない。しかし、日本の学校教育で学んだ子どもたちの成果・評価専用の問題を作ってあげるのは、本来は教育行政の責任である。そして、この場合の成果とは学校教育の結果であるはずである。学校を外部試験対策の場にすべきでない。それを外部試験で済ませるというのは、出題そのものについて、まったく日本の責任官庁が関係しない、つまり責任を持たないということであり、学習指導要領の存在理由を自ら否定している。
 よい問題とは何かを考える上で合目的性以外に目を向けると、各種外部試験には対策講座や教材が多数存在し、「教育産業」となっている。しかし、「対策すれば高得点」が本当に取れるような試験は不出来である。純粋に英語力を高めないと成績が上がらないのがよい問題なのだが、各種外部試験は規格化・パターン化に合わせた対策で効果が上がることを自ら主張している。大学入試への外部試験導入は、「○○人合格」という成果主義と相まって、学校の授業をパターン化された外部試験対策に変えようとする教育改悪である。

 現行のセンター試験を改善するというなら、元々学校教育改善を意図して作られたものではない外部試験の導入は、目的に合っていない。当たり前だが外国語教育の専門家によって作成された、日本の高校生向けの試験を導入するのが適切である。


第46回大会参加者氏名

淡路佳昌(語研)   池田真澄(新英研)   浦谷淳子(新英研)
大内由香里(語研)   大栗健二(新英研)   神谷善弘(高独研)
佐々木力(高独研)   瀧口 優(新英研)   田島久士(語研)
田中 渡(新英研)   手島 良(語研)   中山滋樹 (GDM)
吉田章人(語研)        

団体名(略称および正式名称)
 語研=一般財団法人語学教育研究所
 新英研=新英語教育研究会
 GDM=GDM英語教授法研究会
 高独研=高等学校ドイツ語教育研究会

日本外国語教育改善協議会・2017年度世話人会
世話人会幹事  田島 久士 一般財団法人語学教育研究所
世話人佐々木 力 高等学校ドイツ語教育研究会
池田 真澄 新英語教育研究会
中山 滋樹 GDM英語教授法研究会
事務局 大内 由香里  一般財団法人語学教育研究所

日本外国語教育改善協議会
  〒116-0013 東京都荒川区西日暮里6-36-13
            サザンパレス102 号室
       一般財団法人 語学教育研究所内


(2018年9月2日掲載)

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