■ 春季セミナー 2013年

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1.基調講演(13:25-14:15)


講師:
斉田智里先生(横浜国大教授)
テーマ:
「学習指導要領の改訂と英語学力の変化-―英語教育政策、教員、生徒の英語学習に対する認識のずれ―」
『新英語教育』2012年11月号の巻頭論文「学習指導要領の改訂と英語学力の変化」を基調)
(以下講演要旨)

* 最近のホットな英語教育をめぐるトピック

基調講演  5月1日付朝日新聞の紙上討論「大学入試にTOEFL受験」が大変な話題になっている。まずこれをとりあげたい。添付資料にもあるが、和歌山大学の江利川春雄教授と自民党教育再生実行本部長・遠藤利明衆院議員の2人の間の「争論」である。
 遠藤氏は「センター試験から英語をやめTOEFL1本にする。TOEFLは世界130か国で使われ、聞く・話す・読む・書く力を全部測れるからこれを目標にする。高校卒業レベルは英検2級、TOEFLで45点くらいだからこれを目指す」と主張。
 これに対する江利川氏の主張は説得力がある。
 江利川氏は「TOEFLはそもそも英語圏の大学や大学院の授業についていける英語力の有無を調べるテスト。高度の読む力を書く力が求められる。東大の入試問題や英検1級より難易度が高い。TOEFLには10,000語水準を超す難解語が頻出するが、学習指導要領が求める中高の単語数は3,000語。生徒は知らない単語だらけの文章を読まされたら英語嫌いになるだけである」と反論する。

* 自民党「提言」の裏にあるもの――財界の要求

 実行本部の「提言」の裏にはこれを推進する財界の要求がある。
  経済同友会は4月22日に提言「実用的な英語力を問う大学入試の実現を~初等・中等教育の英語教育改革との接続と国際標準化~」を出した。 経済同友会の政策提言の本文と資料は以下の通り
  http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2013/130422a.html
これによると、2016年までに外部試験を大規模に導入するよう求めている。 ちなみに、外部英語検定試験受験費用一覧表にすると次のようになる。

TOEFL iBT 225ドル/260ドル、
TOEFL ITP Level 1  4,380円、
Level 2  4,040円、
TOEIC(公開テスト)5565円、 
TOEIC IP     4,040円、
英検2級      4,000円
IELTS       24,675円、

 TOEFL(iBT)の「国別ランキング」では、1位 オランダ 韓国が81点(平均値80点)、日本は135位(70点)となっているが、このランキングはほとんど参考にならない。
 「大学入試の英語」をめぐる議論から見えてくる課題は以下のように考えられる。

  1. ① 大学入試の英語をどうするか、 
  2. ② 外部検定試験を用いるのか、
  3. ③学習指導要領と入試の関係
  4. ④ 英語教師の専門性

* 英語嫌いの現状

 平成23年6月に文科省が出した「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」によると。次のような深刻な事態が起こっている。「英語が好きな生徒は中学1年では6割を超えるが、学年を経るごとにその割合は減り、中学3年では5割を切る」。
 平成20年度のベネッセ調査でも「中1の後半からで好きでなくなる」、となっている。ベネッセ調査によると、つまずきやすいポイントは7割以上の生徒が「文法が苦手」でトップ、2位は「テストの点がとれない」。ただ、教員が考える生徒のつまずきの原因は、トップ3が以下のようである。

  1. ① 「単語を覚えるのが苦手」、
  2. ② 「英語に限らず学習習慣がついていない」
  3. ③ 「学習自体への意欲が低い」

であって、「文法事項が理解できていない(苦手)」は6番になっている。

* 英語学力の低下

 茨城県立石岡第二高校に勤務していた当時、英検研究助成論文で「高校入学時の英語能力値の年次推 移」を発表した。1995年度から2002年度に実施された高1対象の県規模英語学力テストを等化し、共通尺度上で高1約12万人の入学時の英語能力値を推定することができた。その結果、高校入学時の英語能力値が全体的に低下していること、特に今から15年前の1998年(平成10年)の低下が大きいことが示唆された。これは学習指導要領の改訂の影響がもろに出ていると思われる。

 

<質疑応答および討論>14:15-14:35

(司会・吉岡より)4~5人でグループを作り講演について10分討論してください。

以下、グループから出された意見。
(T大学・学生)
生徒の苦手を克服するためには、生徒が知りたいと思うことを優先的に取り上げて能動的な授業展開をすることが必要だと意見が出された。
(東京・小学教員)
小学校で英語も教えている。「Hi, friends!」を使って外国人講師がすべて英語でやっている。そのため、先ほどパワーポイントで示されたデータと違って、好きでない子が増えている。8年間担任がカリキュラムを作ってやってきた。生徒とおなじレベルの担任としての私が教えていると、生徒がなつく感じがする。
(東京・中学教員)
私たちは、教師志望、中学教員、高校教師、会社員などいろいろの背景の人たちのグループ。小学校の英語は"遊び"が中心で、楽しくないはずがない。中学校で文字を入れると英語嫌いになるのは当然。小学校でALTが主導でゲームや歌だけの英語授業では力がつかない。文法を平易なことばで説明する必要がある。たとえば、動詞は主語が動作をすること、助動詞は動詞を助けるものというように。
(埼玉・中学教員)
自民党の提言の「外部テスト導入」は問題。去年の斉田論文の指摘は参考になった。「つまずき」は生徒と教師の視点が違うから、私たち教師がきちんと分析する必要がある。私は、去年の9月以来、①習った文法で自己表現 ②重要表現のスマイル・インプット ③重要単語から各課30の単語を選択して明示、この3つをテストに反映させているので少しずつ力がつきつつある。『新英語教育』2013年6月号に詳しく書いているので参考にしてほしい。

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