■ 映画で授業

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第68回 『となりのトトロ』 My Neighbour TOTORO 1988年

瀧口 優(たきぐち・まさる 白梅学園短期大学)

はじめに

 「となりのトトロ」といえば、宮崎駿監督作品の中でも子どもたちによく知られている作品の一つで、大学生から小学生まで楽しんでみることのできる作品である。高校の教員から短期大学の教員になって今年で10年になるが、この2年ほど「My Neighbour TOTORO」を授業に取り入れている。本号ではこの映画を大学生に使っている様子を報告したい。

物語

 紹介するまでも無いが、舞台は昭和30年代の埼玉県西部、所沢市付近である。大学で考古学を研究しているお父さん、小学校6年生のサツキ、4歳のメイはある日豊かな自然に囲まれた美しい田舎に引っ越してきた。「お化け屋敷」と言われている家であるが、そこで生活しているうちに二人はトトロに出会い、自然との共存を感じ取っていく。お母さんを一人で探しに行って迷子になってしまうメイとそのメイを必死になって探すサツキ、二人の成長を見守る父親と母親、こうした姿に子どもたちも学生たちも心を引かれてゆく。

授業での扱い


 私の英語の授業では、前期に英語の歌を中心に行い、後期は映画を中心に授業をすすめる。子ども学科の1年生と2年生対象であるが、「となりのトトロ」の場合は映画を30分ほど見せて、それから映画の会話の場面をプリントしてポイントになる会話を日本語に翻訳させる。ただし、冒頭の「さんぽ」の英語版の歌を事前に配布し、その読み取りと歌の練習を行う。映画がスタートした時点で一緒に歌えるということも大切なことである。
 映画は英語音声の英語字幕で見ているので、中にはよくわからないという学生もいるが、ほとんどの学生が一度は見たことがあり、ストーリーも単純なので英語が分からなくても安心してみることができるのが強みである。映画を止めるシーンはいつも悩むが、学生からため息が出れば私の判断があたったと思って楽しんでいる。なお「となりのトトロ」以外の映画は全て英語音声の日本語字幕で取り扱っている。いずれはこれらも英語音声の英語字幕に移行できればと思っている。
 一通り日本語への翻訳が終わるのをみはからって、会話の部分をペアや3人組で練習させる。映画では毎回必ず一つのシーンを取り出して練習させるようにしている。会話だけでなく導入の解説などを群読でクラス全体で詠むこともある。11月にやった「美女と野獣」では冒頭に王子が野獣に変えられてしまう場面(27行ある)を1行ずつ順に読んで、次のシーンに入っていくということもやってみた。
 大学は90分授業なので30分を映像に、30分を翻訳に、そして30分を会話やアクティヴィティにとして使い分けている。
 「となりのトトロ」は授業で3回に分けて全体を見ることになっている。評価については年度の初めに学生と相談して「平常点」を基本とすることになっているので、毎回プリントを提出し、最後にはその英語の感想を書くことになっている。感想は基本的には英語で10行程度を書くように指示しているが、どうしても書けない時ははじめの一部だけでも英語で書くことを目標とさせている。この感想についてはそれぞれの映画のインパクトが強いので、とてもよい感想になっている。半数は全て英語で書いてくるのも頼もしい限りである。

DVDの効用

 どの映画を授業に取り入れるのかという点で、いつも気になるのが映画の時間と英語の難易度である。ビデオの時も英語の字幕が出るキャプションがあったが、特殊な機器が必要であり、なかなか手を出せないでいた。DVDが出るようになって、英語字幕と音声が自由に変えられるようになり、授業に取り入れやすくなったことが私の映画利用に大きな影響を与えている。宮崎駿監督作品も全てが英語字幕と英語音声を備えているというわけではないし、学生が安心して見られる映画としてこの「となりのトトロ」は有効である。原始的ではあるが英語字幕は一時停止状態で書き取っていく。全てをダウンロードする機器もあるが、結局使えるところだけあれば授業には十分である。

学生の反応

 後期の授業では「E.T.」「パッチ・アダムス」「美女と野獣」「ゴースト」そしてこの「となりのトトロ」を授業で取り上げたが、いずれも学生の反応がよく、4月当初に「英語は嫌い」と言っていた学生が少しずつ好きに変わり、1月末のアンケートでは「映画を授業に取り入れること」についてはほぼ全員がその意義を理解し、「英語が好き」と答えた学生が倍増した。
 「となりのトトロ」だけでそのような結果が出たわけではないので安易に評価はできないが、少なくとも貢献はしていることは間違いないと思われる。
  • 気軽にそのフレーズを覚えられるから。また英語で聞くのと日本語で聞くのとで差が出ておもしろいから
  • 知っているから、その差を知るのがおもしろい
  • いつも見ているトトロは日本語だったので英語版を聞いて変な感じがしました。やっぱり日本語版のほうが私は好きです。
  • 日本語の「トトロ」を知っているはずなのに音声と字幕を英語にすると全くわからないので、こんなに違うんだなと思い、とても印象に残っています。

終わりに

 2011年から小学校に「外国語活動」として英語が入ってくる。その小学生に英語を教える機会があり、「となりのトトロ」のテーマソングの一つである「さんぽ」(あるこう、あるこう…)や「となりのトトロ」も英語版があり、「さんぽ」の英語版「Hey, Let's Go」を使ってみた。子どもたち(小学校5年生)はすぐに覚えて歌ってくれた。彼らの要求に合った歌なのであろう。映画を一部見せたクラスもあるが、英語字幕にしても英語音声にしてもついていくのが大変であった。字幕を見慣れていないせいもある。
 しかしこの取り組みを通して小学校の英語活動に映画を使うことが可能ではないかと思えるようになった。子どもたちが感動する映画を使えば十分対応できるというのが子どもとの授業を通じてつかめたことである。
 また「となりのトトロ」の環境との共生とテーマに子どもたちに「環境問題」を考えさせた。環境問題でイメージすることを出してもらい、みんなで何をしなければならないか考える機会になった。映画「となりのトトロ」は小学生から大学生まで授業に参加することが可能な映画である。

資料

ダウンロード

DVD

DVDパッケージ
となりのトトロ
1988年 本編90分
監督 宮崎 駿
DVD●ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテインメント●4935円
(字幕・音声とも、日本語・英語の設定が可能)


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 このページの内容は、雑誌「新英語教育」2009年3月(475号)に掲載された記事を、了解を得て転載したものです。
 文中のYouTubeの動画表示および「資料」は、サイト編集部で追加しました。