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■ 平和教育をどうすすめるか

5つのテーマ

マララさんのスピーチを用いた学習(2)
  マララ・ユスフザイさんの国連スピーチに学ぶ

吉浦潤次(よしうら じゅんじ 大阪・交野高等学校)

 今年(2013年)7月12日国連で行われたマララさんのスピーチを教材に、リスニング、読解、英作文から暗唱に取り組みました。以下はその報告です。(2013.10.27)

1 はじめに

交野高校は学研都市線沿線の静かな環境にあり、中堅校と言われ、生徒たちも落ち着いています。この授業は3年生の選択で「リスニング演習」という科目です。2006 年の開始当時はセンター試験のリスニングを年頭に入れていましたが、センター試験を受ける生徒は他の選択に回るなどして、現在では英語の好きな生徒か他に選択するものがないという生徒が集まっています。2013 年度は学年のほうで少人数開講を希望されたため21 人が選択しています。
授業での教材は桐原書店の HyperListening Elementary を少しずつ使いながら、英音法(歌と映画)、もっぱら映画のトレーラのリスニングや、サイト・トランスレーション、通訳練習などを行っています。
1 学期後半はミュージカル Hairspray から映画のシーンのグループ発表を行いました。
文化祭が終わると、マララさんの国連スピーチの取り組みを行いました。このスピーチは、内容のある言葉を聞いて理解し、それについて自分の考えをまとめ、英文で書き、さらにそれを暗唱するというところまでの学習が可能であると考えて取り上げました

2 取り組みの流れ

  1. 日英字幕入りのDVDから、ニュース映像を見せた後、英語字幕で全体を見せる。
    ———7 月のニュースでマララさんのスピーチを知り、教材化することにしました。テキストをWeb ページ2 カ所から手に入れ、全部を点検し、ニュース映像を二つ入れ、スピーチ映像に日英字幕をつけたDVDを製作しました。2 学期以降使うためです。
  2. 次にスピーチのプリントを配布する。セクションごとに日本語による質問を設定してあるので、各自で読み、グループで内容理解の話し合いをし、設問に答えさせる。
    ————プリントには問題の背景的知識、スピーチの中に出てくる予備知識として必要な事柄の注をつけ、さらに全体を9つのセクションにわけ、それぞれに内容についての設問を用意しました。設問を読んでその英文を読むポイントとしてもらうためです。全てがわからなくても何を読み取ればいいかを示せば比較的短時間で作業ができます。
    配布したプリント
    会員の方はPDFファイルをご覧いただけます。閲覧にはパスワードが必要です。
  3. 2セクションごとに、設問の主旨にあう英文を指摘させてから解答する。その後、その部分を日本語字幕で見て確認させる。
    ————生徒は設問に答えるため、それぞれ辞書を引いて単語を調べ、グループで相談します。設問の答えになっている英文を指摘させ、訳を行います。その中で、覚えて欲しい単語や、内容面で大切なことをいくつか指摘しておきます。日本語字幕で見ることで理解が漏れていた部分を補うことができます。
  4. 英作文のプリントを配布する。その内容は1)マララさんのスピーチの概要を日本語で書く。2)スピーチの中で気に入った英文や言葉を抜き出す。3)感想を日本語で箇条書きにし、英文の構想とする。4)英文を書く。全訳もここで渡す。
    ————概要を書く場合はやはり200 字とか制限する方が生徒の思考が鍛えられると思います。要領が悪いと文章は長くなってしまいます。気に入った言葉や英文を抜き出す作業は、英語の感想文に利用できる可能性が高いからです。実際生徒はそれを英文に使っています。感想を箇条書きにするというのは、日本語の文章にしてしまうと、その日本語に引きずられて、英語が書けなくなるからです。自分の知っている、分かる構造の英文で書くには箇条書きがいいと思います。実際には文章を書いている生徒が多いですが。
  5. 英文を書いたら、教師に提出してチェックを受け、さらに清書用のプリントに清書して再び提出し、チェックを受ける。
    ————文法や語法で基本的な部分を訂正し、だいたい通じるだろうと思われる範囲のチェックとしました。厳密ではありません。清書させるのは、チェックを受けた部分が正確に伝わっているかどうかを確認するためですが、よくまちがっていますし、他の部分であらたな間違いもあります。清書した原稿にもう一度チェックを入れて返却します。
  6. 原稿の音読から暗誦へ。
    ————暗誦するというと生徒はいきなり覚えようとします。暗誦が目的となってしまいますので、まず何度も声に出して読むことを勧めます。それが守れている生徒とそうでない生徒は必ず出てきます。また、聞いてくれる人に伝わる話し方をするように、早口で言ったり、声が小さかったりしないようにポイントを説明します。
  7. 発表に際しては、記憶よりも聞いてくれる人がわかるような話し方をすることが大切なので、原稿を持ってもよいこととした。
    ————記憶よりも伝わることを大事にして、原稿を用意してよいと言います。発表では原稿をじっと見ている者、ときどき見る者もいました。大胆に大きな声でゆっくりと話す生徒もいました。個別の音声指導はしなかったので、単語の発音間違いがかなり見られます。
    発表のあと、マララさんのスピーチを英語でもう一度見ました。今度はかなり内容がわかったはずです。
  8. 考査について
    考査はリスニング問題(25 点)がスピーチの音声から単語の穴埋め、ディクテーション、筆記問題(50 点)はスピーチの英文から内容や語句についての問題、さらに自分が発表した英文をもとに、マララ・スピーチの感想を英語で書く問題(25 点)を出した。スピーチの英語の問題もよく理解されており、全体として成績はかなりよかった(77.3)。
    ————その理由として考えられるのは、学習したことを英文で書き、暗誦するという作業を行ったことで理解が深まり記憶が定着しやすくなったということです。それ以前に同世代のマララさんの言葉が感動的であるということがもちろんあります。よい教材が生徒の表現への意欲をそそると言えます。

3 生徒が書いた英文から

  1. I thought it was natural for us to be able to go to school. But I knew there are a lot of people who are suffering from not being able to go to school in parts of the world. I was shocked to know that. (O. A.)
  2. Although Malala is two years younger than I am, she insists on her opinion for people in the world who are involved in disputes and suffering from the human rights question and so on to help such people. … I want to be brave and strong like her. We must know the value of getting education. (N.E.)
  3. I hadn't known Malala and this case before. There are many things I don't know all over the world. I want to know more about the world. (I. M.)
  4. But a girl who is younger than I was shot in the country unknown to me. Even so she wants to get the right to education. I felt how small I was. I was born in a peaceful country. Thank God. And we don't study for our own future but we study so that everyone can live happily wherever we are born. I want Japan and the world to change. And I want to change. I never forget her guts, dream and her experiences. (M.)
  5. I admire her for her courage. I think it impossible for all terrorists like Taliban to be educated. We must learn many things from her speech. To learn about her in class, I realize that I live in perfect peace. May her dreams for peace come true! (H.)
  6. I felt happy with my environment, because I used to think, "What a bother" it is to study. But now, I don't think that. I thought I should be deeply grateful to my environment and I should study even harder. (S. S.)
  7. I hope that her activities will change the world and I want to help her in any way I can. (M. N.)
  8. If people around the world unite, I think, this question will be solved some day. (S.)
  9. It is a very sad thing that the adults who should protect the right are causing war and terrorism and have deprived children of various rights. (N.)
  10. Hearing her speech, I was surprised at her courage and vision. Ms. Malala is two years junior to me. She was shot and injured by Taliban. Although they tried to change her opinion by the gun, she stood up for the right to be educated at sixteen years old. She did not resort to violence but she tried to embrace her enemy by ancestors' wisdom that she had learned. Hundreds of women and children are struggling for their right of education even if they risk their lives. In contrast, we think getting education is a matter of course. This perception is not right. Malala said, "We realize the importance of light when we see darkness." They were not permitted to get education. That's why they could understand essence of education. As a young girl, Ms. Malala could speak out her opinion clearly. This is the work of knowledge. I was convinced that education is important for us to speak out our own opinions definitely. (U. Y.)
  11. It is great to have strength to stand up and a hope in spite of facing death. I think that Malala might think, "What good is it to hate the Talib?" (F. M.)
  12. Thanks to this speech I find education is important. Malala's speech impresses people deeply. (S. S.)
  13. I had thought, "It is natural that we live in peace." So I thought, "It's tiresome to go to school and study," but I knew from this speech that waswrong, and there are many children who can't go to school and study. (H. H.)
 21 人の生徒が発表しましたが、1)自分たちは普通に学校に通っているが学校に行けない子どもたちがたくさんいるのだと気づかされた、2)自分より年下のマララさんの勇気に驚くだけでなく、その教育を受ける権利に対する熱意と行動に心打たれるなどの意見が多くありました。

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