TOP>会員実践5つのテーマ>平和・人権

■ 平和教育をどうすすめるか

5つのテーマ

このページの資料(画像)は拡大表示することが出来ます。→ 説明を読む。 

「平和・人権」を音読・暗唱・スピーチ・劇で学んだ3年間
―サダコ、アレン、キング、ハンナのかばん―

山口 良子(やまぐち りょうこ 京都・同志社中学校)

1.はじめに―英語の授業で平和を考える

 2005年度、1年生のクラスで生徒たちが真摯な気持ちで学ぼうとする姿に触発され、3年間の見通しをもって「人権・平和につながる教材、生きていくことの意味を考えられる教材」を読み、感じ、考えることを生徒とともにしてみようと思いました。同志社中学校ではアレン・ネルソン1)冊子の実践を1999年以来9年間続けてきたので、この学年が3年生になったときにこの冊子を深く読み取れるように、と1年生時から準備しました。

2.生徒のようす

 同志社中学校は京都市にある男女共学の私立校で、在野の精神とキリスト教にもとづくヒューマニズムの教育の歴史と伝統、リベラルな雰囲気を持っています。ほとんどの生徒が小学校4年生頃からの受験勉強を経て入学してきます。遠距離通学生も多く、経済的に恵まれ素直で意欲のある生徒、小学校時代にリーダー的存在だった生徒もいますが、小学校時代から大人に生活を管理され、自分で考え行動することができなかったなど、いろいろな意味で私立中学特有の問題を抱え、なかなか複雑です。

3.英語授業の概略

 時間数:1年生は週4時間(Native 1h、Non-native 3h)でクラス40人をすべてハーフサイズ20人にして授業、2・3年生は週5時間(Native 1h Non-native 4h)、そのうち3hは40人クラス、2hは20人クラスです。
 テキスト:1年生2学期まではOPEN HOUSE(Oxford University Press)CD付、3学期からNew Crown1を、2・3年生ではNew Crown2・3、問題集、自主教材を使用。
 授業の進め方:1年生の最初に①音読の大切さをたえず訴える。宿題は毎日音読5回。声を出すこと、英語を読むことが楽しくなるように英詩・寸劇をペアや、4人1組で練習。②テープと一緒にシャドウイング③4人1組で暗唱発表④音に慣れてきたら「つづり」の練習、英文筆写という風に進め、2・3年になっても音読重視を強調。どのレッスンも毎時間繰り返し音読し最後は暗唱。ノートづくりのときにも本文は音読しながら5回筆写するなど、基礎トレーニングを大切にしました。

4.教材

(1)2年生のときには「New Crown 2」
 ①生きていくことの意味を考えられる、深められる教材
  • "My Dream"→自分の夢を書いてみよう!→ミニスピーチ発表
  • "Landmines and Children" 写真、DVDも活用して背景を知る。
 ②お互いの気持ちを感じあう、間のとり方、気の合わせ方の練習
  • 英語劇A Pot of Poisonを4人1組で発表
  • 3学期には少し長めのスピーチをつくり覚えて発表
    クラスメートの発表時にはお互いに「ひと言コメント」を書く。
◆2年間で生徒たちは英語の授業で学びあい協力して音読練習、暗唱発表することが当たり前になっていきました。

(2)3年生でも①と②を深める教材

5.Sadakoをどのように深めたか

 3年生1学期に"Sadako and the Thousand Paper Cranes"を読み暗唱。さらにSadakoを深めるために次のように工夫。
  1. The Sadako Storyを読む。
  2. Highslide JS
    〈資料1〉

    〈資料1〉
  3. サダコに関するDVDをワークシートに記入しながら観る。
  4. シアトルのサダコ像修復序幕式・ランターンセレモニーのDVD(山口が現地で撮影)でパンピアン美智子2)さんのスピーチを聴きとり、そこに参加されたサダコの兄・佐々木雅弘さんがお話されている映像を観る。
  5. 「夏休みに『サダコ、ヒロシマ・ナガサキに関する新聞記事』をひとつ見つけて、ひとこと英文で紹介し感想を言えるように準備して2学期に発表しよう!」と夏休み前に呼びかける。
  6. 〈資料1〉は夏休みあけのこの発表時の生徒のコメント用紙です。生徒の選んだテーマは多岐にわたり、お互いにいい影響がありました。
  7. Highslide JS
    〈資料2〉

    〈資料2〉
  8. 生徒の作品
     最初に私が思っていたのは、新聞の切り抜きを選んで、簡単な紹介と感想をかいてもらうという程度のものでしたが、生徒はとても真剣に取り組み、予想をはるかに超えて丁寧なものになり、内容を深めることができました。右のポスターには英文で I think this is Sadako's prayer. She hopes the world to be like the poster. Children are playing happily with Sadako's paper cranes in this poster. In the background of the poster, Sadako is folding her hands and is praying.~と書かれています。
  9. ハーフの授業で発表した後、4人一組の班で壁新聞にして教室にはり、3学期の教科展でも展示。一つひとつの作品にそれぞれの生徒の気持ちがこめられていて、心打たれました。
  10. Highslide JS
    〈資料2-04〉

    〈資料2-04〉
    Highslide JS
    〈資料3〉

    〈資料3〉
    Highslide JS
    〈資料4〉

    〈資料4〉

6.アレンさんの冊子をどう読んだか

 11月9日(金)人権行事の日にベトナム帰還兵で平和活動をしているアレン・ネルソンさんのお話を聴いたあと"To End the Misery of War Forever ~No Reconciliation, No Peace~"を読み始めました。
Highslide JS
〈資料5〉

〈資料5〉
  1. 最初のMessage to the Students は内容読みとりのあと暗唱。
  2. アメリカ海兵隊の訓練、沖縄の様子がわかるDVDを観る。
  3. 本文6章~12章まで、ワークシートで予習し読んでいく。
  4. ワークシートは毎回集め、生徒の感想の部分はクラスごとにすべて打ち出して授業で配る。〈資料5〉はワークシート例です。

[英語が苦手なH君の変化]
 この冊子を読み始めてから、それまで英語の単語も中々覚えられなかったH君が、英文読み取りの内容によくついてこられるようになっていました。H君は、「1年生のときに学園祭でアレンさんの朗読劇をしたので、とても興味を持っていた。だから英文をよく読んだら内容がわかりやすかった」と言い、英語が苦手な友だちに一生懸命に教えていました。自分の感想が掲載されたプリントも大切にファイルしていました。

7.3年の3学期

 アレン冊子を終えたあと、ハーフクラスの授業では日本国憲法9条を英文で読み、キング牧師の英語劇にもさっと取り組み、最後にキング牧師のI Have a Dream の一節を暗唱発表して卒業という風に進めました。フルサイズ(40人)クラスでは、New Crown3をすませて、『ハンナのかばん』を速読風に読むことに挑戦しました。

8.学年文集

3年生の終わりにあたって、ひとこと英文で書こう!

Highslide JS
〈資料6〉

〈資料6〉

 3学期の終わりに下記の内容で英文づくりを呼びかけ、学年324人分を1冊にまとめて、卒業式に配ることができました。〈資料6〉
 以下生徒の作品の一部です。〈資料7〉〈資料8〉
Highslide JS
〈資料8〉

〈資料8〉
Highslide JS
〈資料7〉

〈資料7〉

9.3年間のまとめ

  1. 基本は、音読。くり返し練習。英文を読みとる力の基礎となる。
  2. ある程度ことばがわかるようになると、内容に惹きつけられて難しくても読もうとする。考えるタイプで最初時間がかかる生徒もいるが内容に興味があると成績が急に伸びてくる。
  3. たとえば憲法9条の英文を日本語にするために辞書と格闘。憲法9条のひとつひとつのことばにこめられた意味を深く考える。日本語と英語での憲法9条の表現の違いにも気が付く。日本国憲法の学習では社会科との協力がとても生かされた。
  4. 英語で「自分の夢」などの英文を書こうとすると、限られたことばで表現するか、考えるため逆にポイントが絞られて内容が深まることもある。英語という1枚のベールをかぶせたようになるので思い切ったことが言える。
  5. 英語で劇や暗唱発表すると、本人の思いがけない表現力が出てくる時がある。特に英語が苦手だった生徒にその傾向が見られた。
  6. 3年計画で学校行事と関連させてアレンさんの冊子の読み取りのことを考えた。1年生の学園祭では学園祭テーマを「和解」として、展示・劇発表に取り組み、80人が「アレン・ネルソンさんの人生」を朗読劇にして演じたり、「ベトナム戦争」を調べて展示発表した。3年生の人権行事では、直接アレンさんのお話を聴き、話し合う機会もあり、その後、長編記録映画『ベトナム』(総監督 山本薩夫・1969)を観ている。そのようなことが、英文の内容理解・深い読み取りにいい形で影響していると思われる。学校行事・クラス活動と教科学習を工夫して結びつけていくことの大切さを感じている。
  7. 取り上げようとする「教材」の面白さを生徒たちに伝えたいと心から願い、できる限りの方法を見つけて五感に訴えていくこと、生徒たちがこの教材を学んでよかった、生きているっていいな!と感じられるように工夫することが大切なのではと思っています。

10.むすび

 人と人をつなぐことば。そのことばを使ってお互いにわかりあう、そのことを喜びと感じられるようにすることこそ平和の基礎ではないでしょうか。
 アレンさんに出会った生徒たちは、それを感じとってくれたようです。
 2009年3月に多発性骨髄腫で亡くなられたアレンさんのご冥福を心からお祈りし、彼の志をうけついでいきたいと思っています。
1)アレン・ネルソン(1947-2009):米海兵隊員としてヴェトナム戦争に従軍、その中で「人間誕生の瞬間」に立ち会い、生命の大切さに目を開かれる。帰国後18年間に及ぶPTSDを克服し、日米各地で戦争のおろかさと日本国憲法第9条の大切さを訴え続けた。"To End the Misery of War Forever ~No Reconciliation, No Peace~"(かもがわ出版)はその講演記録をまとめた冊子。
2)パンピアン・美智子:シアトル在住のジャズシンガー。長崎出身で「シアトルのサダコ像」修復に尽力。

Amazon.co.jpアソシエイトサーチ: