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■ 学習集団の指導

5つのテーマ

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「学びの共同体」による協同学習に取り組んで

沖浜 真治(おきはま しんじ 東京大学教育学部附属中等教育学校)

1.「学びの共同体」とは?

 私の勤務校では、2005年度から東京大学大学院教育学研究科の佐藤学教授にアドバイスをいただきながら、「学びの共同体」という協同学習に学校全体で取り組み始めました。これには生徒全員の学びの質をもっと高めていきたいという教員の願いとともに、法人化された国立大学の附属学校としての生き残りをかけて、なかなか減らない成績不振者問題を解決したいという背景もありました。
 さて佐藤氏が提案する「学びの共同体」における協同学習は具体的にどのように進めていくのか、その特徴を以下に記してみます。実はこの中には私にとっては目から鱗というような項目(下線で表示)がいくつかありました。
(1)基本的な考え方
  • 「(中学校の構造的な問題として)長年にわたって『三つの指導(生徒指導、部活指導、進路指導)』を中心に中学校の運営が行われてきたため、<授業>と<学び>は、教師においても生徒においても周縁へと追いやられている。」
  • 「中学校の改革は、<学び>と<授業>と<研修>を中核にすえてこれら一連の構造的な問題の解決をはかることに他ならない。」
(2)具体的な方策
  1. ①すべての授業にたとえ数分でも「活動(作業)」「協同(グループ学習)」「表現の共有」の三つの要素を取り入れる。その際
    • 「共同的な学びのねらいは、他者の考えを聴いて、自分の考えを補強したり、発展させたりする活動が中心であって、グループで一つの考えにまとめることではない。」
    • 教えあう関係でなく学びあう関係を(「できた人はできない人に教えてあげて」ではなく「わからない人はいつまでも自分一人で考え込まないで隣の人に聞くんだよ」という指示が大切。)
    • 「背伸びとジャンプ」(「高いレベルでの課題を設定し、主にグループ活動を活用して低学力層の学力を引き上げると共に、高学力層の子どもの発想力や創造性を培う学び」)を取り入れたい。
    • 「個人学習の共同化」のためのグループ学習(答え合わせなどのやさしい課題にグループで取り組ませる)も積極的に活用すると良い。時間短縮にもつながる。
    • 「グループ学習は、学びが成立している限りにおいて進めるべきであり、学びが成立しなくなる直前で終えるべきである。」
  2. ②「教師のテンションを下げる
  3. ③「聴き合う関係」をつくりあげるため教室の机配置をコの字型に変える。
    • 「グループは男女混合の4人を基本とするのが好ましい。」
  4. ④順番にすべての教師が授業を公開し、その後に学年単位あるいは校内全体で授業事例研究会を行う。その際、生徒の「学び」がどうなっていたかという観点で学びあう。
    • 「ともすれば教材と教師の指導技術に話題が集中しがちな授業研究を生徒の学びの事実に焦点化して話し合うスタイルへと変える」
  5. ⑤親の授業への参加(東大附属ではこの点については未着手)

 まず大前提として、これを原則として講師の先生も含めてすべての教員が理解し実践するということが要求されています。何事にせよ、教員全員が一致してやることの影響力が大きいことは教員なら誰でも感じていることでしょう。このことが生徒にも学習観と参加意識の変化をもたらさないはずがありません。
 先に目から鱗と記しましたが、最初にハッとしたのは「教師のテンションを下げる」という点です。教師はなんとか生徒に理解させようと力が入って、つい大きな声で時には必要以上にくどくどと説明しがちです。長い説明が生徒のおしゃべりを生むことも多いですし、その生徒のおしゃべりに対してさらに大声で対抗するという悪循環もよくあることです。とは言うものの、果たして自分にもできるのだろうか?という不安がありましたが、驚いたことにコの字の机の配置にしてその真ん中近くに立って授業をしてみると、生徒との距離が教室の前に立っていた時よりすっと近づいた感じがして、自然と声量が下がっていることに気がつきました。私語に対しても遠くから大声で注意しなくても、ちょっと近寄ってジェスチャーで止めさせることも可能です。

 グループ活動に消極的な教師の理由の一つは生徒のおしゃべりで授業が進まなくなるのではないかという恐れのようですが、その原因について佐藤氏は「教師自身が無駄な言葉が多く、おしゃべりである」か、課題がやさしすぎるかであると分析しています。私も授業の最初に生徒の意識をこちらに向けさせようと世間話や冗談を言ったために、生徒はそれをきっかけに自分の話題でおしゃべりを始めてしまうことがよくあることに思い当たりました。起立や礼などもやめて静かに「では今日の勉強を始めましょう」とすぐに本題に入ればよいというのが佐藤氏の持論ですが、これも一つの見識でしょう。作業やグループ活動を入れて、説明よりもその中で理解をさせていくことができるようになることも教師のテンションを自然と下げてくれる原因だということも感じています。ある意味で協同学習は教師の余計な負担を減らしてくれるものと言えるように思います。
 さてもう一つ驚いたことは、グループ活動において「決してグループ内の考えや意見の一致やまとまりを求めてはいけないし、班学習のように小グループを代表して意見を言わせてはならない」という点です。これに関連してさらに「したがって、共同的な学びにおいて、リーダーは存在しないほうが好ましい。この点が生活班の活動との大きな違いである」とも佐藤氏は述べています。
 また佐藤氏はグループ編成に関して、無作為の男女混合4人グループが最もやりやすいようだと述べています。この場合に活動が停滞しがちな班ができることがあるのは事実ですが、(他の班はほっておいてよいから)グループ活動中にその班の活動が進むようにお互いの関係をつないでいって援助するのが教師の最も重要な仕事だといいますから、教師の任務も割合単純ではっきりしていてやりやすいと私は感じています。また定期的にグループ編成替えを行うことで弊害を最小限にすることもできます。

2.どんな課題、活動がよいのか?

 これまで実践してきて、多くの教員がさらに追求していかなければならないと感じている点は、特に生徒の力を飛躍的に伸ばす「背伸びとジャンプ」を可能にする、しかもそれほど大げさな準備がいらない日常的な活動とは何かということです。学びを豊かにするにはカリキュラムを「プログラム」(段階)としてではなく、「プロジェクト」(課題)として捉えなおすことが必要だと佐藤氏は述べています。しかし英語という教科は段階的な技能訓練が占める部分も大きく、当然プロジェクト的な活動に利用する時間は限られてきます。みんなでやや難しい課題を考えるというイメージだと、意見交換が日本語になってしまい、また文法に関するものが多くなりがちです。これならうまくいくのではないかと今考えているものをいくつかあげておきます。
群読 / 分担しての英文読解(ジグソー) /
描写と言い換え練習 / 例文づくりによる自己表
現 / 単語カードを並べかえての英文づくり /
複雑な英文の分析(文型と修飾関係) / マイク
ロディベート

3.ジグソーへの生徒の反応

 3年生(中3)夏休みの宿題の副読本Fly Away Home(PENGUIN READERS)への取り組みの導入として、『ジグソー』という手法で1つの章の内容を読み取らせる授業をやりました。
Highslide JS
〈資料1〉

〈資料1〉
 最初にプリント(<資料1>参照)を配布して、そこに書かれているやり方に従って、コーラスリーディング、スペシャリストグループでの読解、普段のグループに戻って正しいパラグラフの順番を考える、答え合わせと補足説明、と進んでいきました。典型的な『ジグソー』では、生徒ひとり一人に異なった教材が与えられて、それぞれが異なった特定の部分の情報を持っているので、必然的に協力が生まれるという仕組みになっています。ただし今回のプリントでは全部の文章がのっています。特に物語においてはその方が自分の担当部分もわかりやすくなるので、このようなやり方を『ジグソー2』と呼んで紹介もされています。用意するプリントが1種類で済むというメリットも、超多忙になっている現場では見逃せません。

 さて実際の授業では答え(順番)については全員が正しく答えていましたが、全体としてはこちらが思ったほど熱中して取り組んでいた印象ではありませんでした。ところが、終了後に今回のやり方について簡単に感想を書いてもらうと、肯定的な記述が予想外に多く見られました。
  1. ①『ジグソー』に積極的に肯定的な意見 63%
    • 細かい所まで訳せて良かった。ストーリーの流れがわかりやすかった。
    • 訳を考えたりする時に、同じ部分の人と話し合えたから良かった。
    • いつものやり方よりも分かりやすかった。時間も短縮できるし、一つのことに集中して考えられるからこれがいい!
    • 自分が思い込んでいた意味とは少し違うような訳し方もたくさんあることが分かるので良かった。
  2. ②『ジグソー』にやや肯定的な意見   16%
    • 文章の内容が深く読み解けたので分かりやすかった。でも自分のパート以外は他の人が担当するので、すごくよくわかるパートと分からないパートが出てくるところがあると思う。
  3. ③『ジグソー』に否定的な意見     20%
    • 自分で訳していないので、細かい所まで読めませんでした。全部自分でやった方が詳しくできて特殊な言い回しも良くわかると思います。
 自分の担当でない部分の理解が十分ではないのではないかという不安は当然のことだと思われます。もとのグループに戻った時の作業のやり方や、全体での確認の仕方に工夫が必要なのだとは思います。今後考えていきたいところです。

 課題はあるものの、共同学習は生徒にも教師にも楽しく、また学ぶことの多い「思想」であり、「手法」であるというのが私の実感です。I hope someday(soon)you'll join us!

<参考文献>