■ 関東ブロック集会

2005年

2005年 関東ブロック研究集会


第1日


記念講演:「人間回復―人として生きる―」


講演者: こだま 雄二さん(ハンセン病違憲訴訟原告団)

 新英研関東ブロックとしても初めて取り上げるテーマであり、中にはまさに"初めて"ハンセン病についての話を聴くという参加者もあるだろうという想定で、「ハンセン病についての基礎的な理解を深めてもらうことをベースにして、谺さんご自身の半生を語ってもらいながら、国家による人権侵害の実態を明らかにし、裁判闘争の意義や今後の課題を語ってもらう」ようお願いしてあった。

 多摩全生園時代の話で時間がほぼ一杯になってしまったが、ハンセン病が皇国史観や軍国主義の下で「国辱病」「日の丸の染み」とされ、患者が強制隔離、強制労働、断種・堕胎などでその存在の全てを否定された歴史の事実が、谺さんの体験を通して分かり易く語られた。戦後、日本国憲法下でも1996年に「らい予防法」が廃止されたが、基本的人権の尊重を基本にした新憲法下でも半世紀にわたって、人権侵害と差別の元凶になる「法律」が存続していたことに愕然とする。国の過ちを明らかにし、その責任賠償としての「国家賠償」を求める裁判闘争について詳しく語っていただく時間が取れなかったのは残念であった。

基調実践報告: 「英語もこの世のものだった!?」

報告者:佐藤清子さん
(栃木・現 英語出前教師、 元 栃木県立鹿沼商工高校定時制教諭)

 佐藤さんは、ご自分の実践を「定時制という特殊な状況下でのもの」とおっしゃられていた。しかし、今日の教育をめぐる状況の中で、とりわけ「(生徒が)学習していることが自分の生きている内側・外側の世界へヴィヴィッドに繋がっていかない」という生徒の状況は、すべてに共通する課題として参加者の問題意識を鋭く刺激してくれた。

 授業で使った映画は、"City of Angels"(言葉のニュアンス理解に効果を上げた)  "Pay it Forward"(文化的背景と言語の問題に気づかせたり、学校教育の違いを見られる)等の8本で、DVDを利用することで一層効果的な組み立てが出来ている。「字幕なし」で観る・聞き取りを繰り返す・字幕をみて英語を確認する・真似して発音する・和訳をしてみる、といった一連の流れを通して生徒たちは、「英語を本当にしゃべっている人がいるという実感がもてた」「英語を気楽に口に出来るようになった」と答えるようになっている。「今まで外国の映画を見に行けなかったけど、字幕を読むのに慣れて、友達と洋画を観にいけるようになった」という生徒の感想を引き出している、「カッコつき『学力向上』はひとまず脇に置いておいて」という佐藤さんの実践は参加者に大きな勇気と確信を与えてくれた。佐藤さんの次の言葉が私たちに1つの大事な視点を示してくれている。"英語の学力向上というよりは、自分の世界とは違う世界を知り、物事の考え方・捉え方を柔軟にして、違う角度から物事を考える大切さ・楽しさを伝えたかった。"

特別報告: 「ジュネーブ国連子どもの権利委員会に参加して」


報告者:『子どもの声を国連に届ける会』の大学生と高校生

 まず2人から、国連子どもの人権委員会で発表した「英語による意見表明」の再現が行われた。川村さんからは、すべてが受験にシフトされている授業に違和感と疑問を感じつつも、それでは「受験に勝てない。受験に必要ないことは考えなくてもいい」と言われるなかで、考えることを止め、「なぜ?」と思う自分を押しこめ、疑問を持たない子になるしかなかった体験が語られた。松本さんからは、中学校の卒業式で、突然、校長が「日の丸・君が代」の導入を強行した。強行されたことに疑問を感じ、校長に疑問をなげかけたが、「子どもには関係の無いことだ」の一言だけで、納得のいく説明をしてもらえず、大きなショックを受けた体験が語られた。

 2人から強調されたことは、子どもの権利条約を語るとき、「意見表明権」が重要なテーマになるが、それは「総理大臣にメールで意見が出せるなどという一方方向のみのこと」ではなく、「ごく身近にいる大人たちが、子どもの疑問や意見をしっかりと受け止めて、それへのレスポンスや話し合いが行われるという人間関係が保障されていること」である。

 「今日本の多くの子どもたちも同じように疑問を持つ心や、何かを感じようとする心を知ら間に潰され、その思いを自分の中から消していっていることに気付いたのだ。(川村さん)」「誰だって、本当は自分の意見や考えがあって、それを人に伝えようとするんだと思います。けれど、それを阻止しようとする環境に圧迫されて、自分の意見を自分の中に封じ込めてしまったり、言えなくさせられてしまう子どもが多いのではないか。(松本さん)」という大学生・高校生の言葉は、言語教育に携わる我々への鋭い問題提起であった。だが、2人の言葉が『新鮮に』感じられてしまうということは、恐ろしい日本の現状が浮き彫りにされていたということではないだろうか。

<フリー・トーク交流会>
 特別報告の時間だけでは不足し、夕食後に実施。
 正確な人数把握ができなかったが、約25名の参加があった。
 初めに、子どもの人権委員会でのビデオを見た後、質疑や感想・意見を出し合った。

第2日


分科会:

  1. 中学校「継続的な表現活動の取り組み」
    中学校「継続的な表現活動の取り組み」 レポーター:城由美子さん(蕨市東中学校)
     コミュニケーションの能力を高めるためにと3年間の目標を設定し、インプット活動やその他の様々な活動(スキット・会話活動・カードゲーム・説明テスト・スピーチ・トピックライティング・音読テストなど)を継続的に進めている、壮大な実践の報告であった。
     よく学習し、様々な工夫をした活動を積み上げている実践に多くの参加者が感動を受けた。
     討論では、
    • できない生徒への援助をどう進めていくか。
    • 言葉(英語)は生きていることを実感できる実践である。
    • 身近なトピックのみでなく、教師が子どもたちに教えたいトピックを与えることで世界に目を向けさせていくと実践が深まるだろう。
    • 生徒同士の相互理解を深めるために、作品やノートを回覧させてはどうか。
    • 評価がすべての面で行き届きすぎていることが、生徒の雰囲気を冷めさせている面はないか。
    • トピックライティングのような素晴らしい実践を、誰もが取り組めるようにするにはどうしたらよいか。
    • 教科通信などでクラスをこえた生徒の交流をはかったらどうか。テスト問題が大変良くできている。
    • 英語学習には2つの目的がある。①英語を使う力を高めること②世界について学び「地球時代」を生きる知識と人格を備えた人間に成長していくこと。世界について子どもたちに学ばせるために、まず教師が学ぶ必要がある。
     壮大な実践に圧倒されつつも、生徒の人間形成と英語力向上をめざす討論が交されされた分科会であった。17名参加。

  2. 高校「基礎学力を付けるアクション・リサーチ」
    レポーター:組田幸一郎さん(千葉県佐倉南高校)
     教師が生徒と関わる時の基本的なスタンスについての仮説を「生徒のクラスでの「居場所」をどの生徒にも感じ取れるようにする。その上で、生徒を尊重しつつ、「責任」を学ばせながら、やる気を導く勇気付けをすることにより、生徒は適切な行動をとるようになる。」として、
    1. 生徒の居場所作り
    2. 生徒を尊重=指示から提案へ
    3. 責任を学ばせる
    4. アドラー心理学
    5. 生徒の不適切な行動
    などについての報告と討論の後、授業実践の報告・討論を行った。
     共通試験なので教科書教材を中心に「(1)リスニング (2)意味を取ること (3)リスニング (4)内容・文法説明 (5)リスニング (6)音読 (7)コーラスリーディング (8)個人読み」といった流れで授業は展開されている。
     大目標を「1年終了時に英検3級の1次試験に半分が合格する」と設定し、毎授業中に (1)本文筆写5回 (2)3分音読 (3)小テストを実施した。53%の生徒が中学校より勉強するようになったという結果がだされた。
     「音読しているうちに内容がわかるようになった。単語が書けるようになって、文のつながりがわかるようになった。ちょっとだけど、前より読めるようになった、うれしい。」など生徒の感想が出されている。
     討論では、
    • 生徒の実態に対して柔軟に対応しているのがすごい。
    • 無意識のことを意識化するということでは、アクションリサーチはとても有意義だと思う。
    • アクションリサーチの発表は聞き手の受け取り次第。多様なケーススタディーがあっていい。
    • 生徒を自立させるのであれば、やはり辞書をひかせるとか、生徒に考えさせることは必要ではないか。
    • この時勢に定期考査素点を出すのはどうか。学力をどう評価するかという問題点。
    • 英検3級ではなく、生徒の実態に合った目標設定があってもいいのではないか。
     心理学をよく研究した上での、それに基づいた(大変な)生徒の理解、また生徒理解に基づいた上でのアクションリサーチに感銘を受けたという意見が多かった。また、その先生方も関心を持っている音読がテーマということで、音読についての多様な意見がだされた。英語の授業を行う上でのベースになる生徒理解に、十分焦点があてられた有意義な分科会であった。23人参加。

  3. 生徒の心の解放を願った取り組み
    人権・平和・環境「平和な心が育つ授業を目指して」 レポーター:福島悦子さん(板橋区第五中学校)
     平気で「死ね!」と他人に言う。他人の持ち物を取り上げたり、いたずらしたりが普通。注意されると暴言をはく。教科担当が変ると去年とはやり方が違うと非難。プリントは紙飛行機…という状況の2年生。認めてもらえた経験が少なく、大人に近寄ってくるが、大人批判も多く大人を信用していない3年生との授業。
     ベトナムやアメリカへの旅行で自分が学び、感じてきた「平和がどれだけありがたいことなのか一緒に認識していかなければ、そして一緒に平和な世界を作っていこうよ」ということを、生徒たちとシェアしていきたいと、生徒に向かって真剣になげかけている。
     「ゼロ・ランドマイン」「ベトナムの子どもたちへのマッセージカード」「私たちはいま、イラクにます」「イマジン」「世界がもし100人の村だったら」「子どもの権利条約」「ヒロシマ・ナガサキ・トウキョウ」「シアトル・サダコ像」「柳寛順」「ブラジル環境サミットでのセバン・スズキのスピーチ」「アイヌ民族」「公民権運動とI Have A Dream」など題材を英文法・語法の学習と結びつけた自主教材を使っての意欲的な実践である。
    討論では、
    • 情報を多く与えて素晴らしい。子ども自身が動き出すようにしたらどうか。
    • その時々のトピックを用いて教材を組み立てている。子どもの視野を広げる良い資料である。
    • 先生が行動している。生徒はすぐに行動に移さなくてもよい。内省して行けは良い。切り口を変えると別の面が見えてくるかも。
    • 体験をすぐ教材にできるのはすごい。切り口について仲間と検討するのが大切。子どもを認めるのが大切。どんなことでも受け止める心をみせたい。
    • CROWNには平和教材が入っている。茨城では県指定でNew Horizonを採択。(現在のところ悪いText)
    • 社会科の教科書からアジアが抜けている。英語で補っていかなければ。
    • これだけの資料を日本語で読むだけでも学力がつく。
    • 教材と関連づけて新聞記事とも結びつけているのは素晴らしい。この大量の資料は年度始めにファイルを与えて整理させている。
    • 感動したことを持続して教材にしているのはすごい。
    • ことばは文化がある。John loves peace. がその例。たった一文の英語でも文化は伝えられる。
     レポーターは「情報押し付けだなあ。もっと生徒たちと、自分たちは地球に住んでいて、地球に住む仲間が世界中にたくさんいる。自分が行動することで平和な世界を作っていける」と実感できる授業をつくりたいと書いている。もっとたくさんの参加に聞いてもらいたい実践である。10人参加。

  4. 総合な学習的の時間・小学校の英語・教育特区の問題「小学校の英語」
    「小学校の英語」 レポーター:瀧口 優さん(白梅学園短期大学・荒川の英語教育を考える会世話人)
     初めに「日本における小学校の英語教育のあゆみ」を簡単に振り返った。次に英語教育特区荒川区について、様々な資料により詳細に報告された。
    1. 導入の過程では、2つの学校を指定して、それをその後すべての学校にモデルとして示す。
    2. 教職員・区民は「教科書ネット荒川」が2100頁の陳述書を議会に提出する。
    3. 授業が始まってみると、学級担任が授業を行い、負担が大きい。各学年とも同じような状況。
    4. 現在、区長が汚職問題で辞任し、選挙などがあり、停滞している。
     日本の小学校英語教育の問題点として、
    1. 子どもの発達の論理を踏まえているか。
    2. 言語の発達の論理、日本語の論理を踏まえているか。
    3. 児童英語教育の理論的・実践的専門家がどれだけいるか。
    4. 教育課程上の問題はないか。
    5. 教員研修が十分に行われているか。
    6. 教育方法上の問題はないか。
    7. 中・高を含めたトータルな外国語教育の連携や体系ができているか。
    8. 人格形成の視点が位置づいているか
    …が提起された。
     どう考え、どうすべきかについて、
    1. 子どもの発達のプロセスをトータルにとらえて、その中で小学校はどのような段階として位置づけられるのかを明確にすること。
    2. ことばの発達や日本語の特徴を理解して、小学校における言語教育のあり方を十分に検討し、その文脈の中で外国語教育を位置づけること。
    3. 外国語をやるとした』場合は、けっして英語に限定せず、地域の実情を踏まえて多様な言語を学ぶ機会を保障すること。
    4. ユネスコ勧告あるいは様々な国々において行われている外国語教育、特に小学校での外国語教育の現状や課題を参考にすること。
    5. 教員養成を十分に行うべきであり、まず大学の指導者を充実すること。
    6. 教員研修の場を十分に保障し、海外の研修も含めて十分な援助を行うこと。
    7. 小学校から高校、大学まで一貫した外国語教育のあり方とそのプロセスを明らかにして取り組むこと。
    8. 保護者や地域との結びつきを強めて、外国語教育に関わる疑問や悩みに答えていくことを通して実態をつかむこと。
    …が提起された。
     最後にベトナムにおける小学校の英語教育について、ビデオで紹介しながら、そのシステム・テキスト・指導者・連携などについて報告があった。
     今後、文科省によって全面的に導入されようとしている小学校の英語教育の問題点がとてもわかりやすく報告され、実態についての理解や今後の課題をあきらかにすることができた。13人参加。

閉会集会

最後に恒例のWe Shall Overcome の合唱
 今回のまとめや、参加者のうち2人からの感想発表など。
 そして最後に恒例のWe Shall Overcome の合唱をして集会を終えた。

オプショナル・ツアー

与謝野晶子文学館見学に29人が参加。好評であった。

(2005年1月18日/5月25日更新)




日 時: 2005年1月5日(水)12:30〜6日(木)12:30
会 場: コープ・シャトウ
群馬県利根郡新治村相俣248 TEL 0278-66-1151
テーマ: 『人として生きる』
記念講演: 「人間回復―人として生きる―」
 谺(こだま)雄二さん(ハンセン病違憲訴訟原告団)
実践報告: 「英語もこの世のものだった!?」
 佐藤清子(栃木県英語出前教師)
特別報告: 「ジュネーブ国連子どもの権利委員会に参加して」
 (「国連に届ける会」の高校生・大学生)
分科会:
  1. 中学校「継続的な表現活動の取り組み」 城由美子(蕨市東中学校)
  2. 高校「基礎学力を付けるアクション・リサーチ」 組田幸一郎(千葉県佐倉南高校)
  3. 人権・平和・環境「平和な心が育つ授業を目指して」 福島悦子(板橋区第五中学校)
  4. 「小学校の英語」 瀧口 優(白梅学園短期大学)
締 切: 12月23日(木)
費 用: 宿泊費7,500円、参加費 2日3,500円/1日2,500円
申込み: 1インターネット http://kanto.jpn.ph/block/
2ファックスで
ホームページ: http://kanto.jpn.ph/block/(詳細な日程も分かります。)

(2004年11月23日)